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定例会講演 2019年11月

 

災害時の防災用自家発電設備の稼働状況と課題

 2019年11月
IEEJプロフェッショナル
谷口 元

概要
 最近の大規模な災害、長時間の停電時に非常電源は、どのように稼働してどんな問題があるのか。法令で設置が義務付けられている防災用自家発電設備について、現状と今後の課題について説明した。

1.防災用自家発電設備の設置状況
 消防法、建築基準法で設置が義務付けられている防災用発電設備は、ここ25年間で延べ15万台、累計2,200万kW(平均約150kW)と小容量のものが多数設置されている。運転可能時間は、これらの法令による負荷への給電(30分~2時間)が主体で比較的に短い。

2.防災用自家発電設備の特異性 
 (1)出力算定:「停電後40秒以内に全消防用設備等への負荷投入」の必要から、定められた出力算定法を使用。この時に長時間停電に備えて必要な負荷をくみ入れ、運転時間を決めることが重要。
 (2)病院用の非常電源:発電設備と給電系統の耐火・耐熱性、耐震性の現状。
 (3)気体燃料を使用する非常電源・ガス導管の評価:非常電源への高圧・中圧ガス導管の耐震信頼性は高い。
 (4)非常電源関係の規格:欧州、アメリカ、日本の現状

3.災害時の稼働状況(出展:日本内燃力発電設備協会資料より作成)
 北海道胆振東部地震:異常報告145台、異常停止96台中メンテ不良64%、配管など系統異常15%となる。そのほかH30年台風21号、H30年大阪北部地震、東日本大震災などの調査結果、長時間停電での燃料切れが多い。阪神淡路大震災以降はメンテナンス不良が減少したものの配管など系統異常が残る。付属機器の耐震不具合もまだ残る。

4.最近の行政の対応
 ・「防災・減災、国土強靭化のための3ヵ年緊急対策」における分散電源支援(経産省)、空港電源の確保、浸水対策(国交省)、病院非常用自家発支援(厚労省)。
 ・非常時の移動用発電設備による低圧事業者への電力供給について(経産省)
 ・特定自家用電気工作物の設置届出制度(経産省)

5.今後の課題
  防災用自家発電設備50年の災害対策の経緯と現状を振り返って。
 (1)重要施設のBCP(事業継続計画)として早急な長時間停電対策。
 (2)浸水想定区域図、ハザードマップに基づく浸水対策の基準・指針の検討。
 (3)非常電源の計画に法令のみでなく、利用者の災害時の利便性を反映させる。
 (4)家庭でも災害対策、停電対策を。 

6.まとめ
 災害の大型化・長時間停電対策としてBCP対応長時間運転への対応。オフィス・タワーマンションなどの重要電源への浸水対策基準・指針の検討が急務である。

以上 

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定例会講演 2019年9月

 

「継電器」の語源調査とディジタルリレーの技術動向

 2019年9月
IEEJプロフェッショナル
臼井 正司

 【概要】 
・「継電器」は,電気学会雑誌第一号(明治21年1888)の表紙見返しに記載されている用語である。これは,当時日本に持ち込まれた「伝信機」(のちに「電信機」)の構成部品の一つである「Relay」の日本語訳であるが,電磁石と,ヒンジ形鉄片で構成される部品に対して「Relay」と命名したのはだれか。これに日本語訳を付けたのはだれか。との疑問を解決すべく調査した結果を報告した。IEEJプロフェッショナルの方々の新たな知見があれば,継続調査したいところである。
・保護リレーは,電力系統の安定供給を支える重要技術である。現在ディジタルリレーが主流となっているが,素子技術の発展,通信技術の発展などにより,小型化,集積化,保護性能の向上が図られている。ディジタルリレーを取り巻く技術領域,技術変遷・最新技術動向について,保護リレーシステム技術委員会の作成資料を基に紹介した。

【結論】
・Relayは,元々「(新しいものを手に入れるため)後ろに置いておく」という意味で,後ろに置いておくものは,犬から馬に変化していくとともに,置いてある場所,これを使ったシステムを示す用語として変遷してきた。
・モールスが発明した電信機では,新しい電池による信号増幅の方法が採用されており,ここに使われている電磁石とヒンジ形鉄片の組合せが「Relay」と呼ばれるようになった。
 なお,Relayの発明者は,米国ではモールス,英国ではホイットストーン,独国では,シーメンスと言われているが,命名者は不明である。(初現は1849年の米国特許公報)
・一方,日本では,律令制に基づく驛制,伝制が江戸末期には,驛馬,継馬と呼ばれるようになっており,この継馬の馬を電に変えたものが,継電器の語源となっている。
・継電器の文献初現は,明治17年戸谷勝彦氏の論文である。
・本語源調査は,国立国会図書館,東京大学図書館,東芝資料館,多久市先覚者資料館,googlebook,google patentなどの調査を基にしている。また,東芝 須賀氏,東芝 関口氏,日本電気 増井氏,電気学会 出版編修課,三菱電機 野口氏のご協力を得ている。
・ディジタルリレーは,1980年代から実使用され,現在では信号伝送技術・構成要素素子技術・最先端技術の集大成となっている。系統解析技術・系統運用技術・通信ネットワーク技術・信頼性技術・ディジタル処理技術に支えられ,発展を続けている。
・将来のディジタルリレーは,ロケーションフリー・メインテナンスフリー・リニューアルフリーに向かっている。また,新たな技術の取り込みにも積極的に取り組んでいる。
・質疑の中で,用語の使い方として,ものを示すのか,システムを示すのか,概念を示すのかが不明確で,わかりにくいとのご意見をいただきました。
・保護リレーは,設備形成に深くかかわっており,互いの最適化を図ることで,系統の安定運用に寄与している。       

以上

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定例会講演 2019年2月(1)

 

九州と電気学会および電気電子教材の工夫

 2019年2月
IEEJプロフェッショナル
山内 経則

1、九州と電気学会
1)古来より九州は、大陸に近い立地により、外来文化の玄関口である。
  それ故に「進取気質と国防の意識」が醸成された。幕末では長崎を中心として、蘭学に熱心な大名(島津、鍋島、黒田、奥平:何れも島津の血縁者)により科学技術の素地が作られている。

2)電気学会は会長の榎本武揚と発起人の志田林三郎らの尽力で明治20年に発足した。
  榎本は、函館戦争で敵対した黒田清隆による西郷隆盛への助命嘆願で特赦となり政府高官となった。榎本と同時に大鳥圭介も特赦となり後に工部大学校初代校長となった。
  志田林三郎は旧鍋島藩(現佐賀県)の出身で創設直後の工部大学校で電気を学んだ。
  榎本と大鳥を助命した薩摩の黒田と西郷の背景に島津忠良の「薩摩の教え:科ありて人を斬るとも軽くすな活かす刀もただ一つなり、つまり斬首でなくその能力を活かすことが武士道である」との教えがあった。

3)明治の中期から大正にかけて九州人による私立大学(早大:大隈、慶応 :福沢など)と電気関係企業(東芝:田中、NEC:岩垂、安川電機:第五郎など)が創設された。これらの九州人は外来文化を積極的に受け入れる好奇心旺盛な風土で育ち、蘭学の延長ともいえる電気に関心を寄せたとも推察できよう。

4)大量の電力を必要とする産業により発電所が作られた。島津家大田発電所(串木野金)、曽木発電所(水俣チッソ)上椎葉ダム(八幡製鉄所)などである。
5)富士電機と西郷隆盛の関係:西郷隆盛の弟従道の孫従純が古河家の養子となり古河家4代目となった。足尾銅山からの事業拡大で古河電工、富士電機、富士通が生まれた。

2、電気電子教材の工夫
1)アインシュタインの光電効果について光の色と波長(エネルギー)の関係を太陽電池とLEDによる指導事例を紹介した。

2)アインシュタインは、光はエネルギーを持った粒子と考え、当たると電子を弾き出し、飛び出した電子と電子の抜け穴であるホールができる。この現象を「ゴルフボールが詰まった箱」を用いて容易に理解できる教材であることを示した。

3)遷移エネルギーと色の関係を各色のLEDの順方向電圧で直視する事例を紹介した。

3、参考資料
1)電気学会100年史、昭和63年(1988)
2)三州倶楽部百年史、公益社団法人三州倶楽部、平成30年(2018)
3)電子工学関連の教材に関する研究、永松、山内、西日本工業大学研究紀要、平成23年(2012)

以上

 

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定例会講演 2019年2月(2)

 

山川健次郎顕彰活動

 2019年2月
IEEJプロフェッショナル
山内 経則

 1、はじめに

 山川健次郎は、安川敬一郎の要請で明治専門学校(現国立九州工業大学)の創立総裁として独特の教育理念「技術に堪能なる士君子の養成」で経営した。筆者は、九州工業大学院で学んだ後に勤務の関係で会津若松市に延べ20年在住した。その間に同窓会(明専会)の活動の一環として健次郎の足跡を研究し、また会津若松のNPO「山川健次郎顕彰会」の発起人の一人となった。今回の報告はでその経緯である。 

2、山川健次郎の業績

1)    白虎隊士として会津戦争を経験し藩の計らいで長州藩士奥平謙輔の書生として勉学、その後、北海道開拓使黒田の英断により米国シェフイールド科学校で土木工学を学ぶ。

2)帰国後東京開成学校教授補として物理学の研究と教育を担当。明治29年
  にX線の研究を寺田寅彦らと行う。

3)明治34年東京帝国大学総長、明治38年7博士事件により総長を辞任。
  明治40年明治専門学校総裁。明治44年九州帝国大学総長を兼務、大正2年
  東京帝国大学総長。

4)メートル法を推進、迷信から脱却した合理的な行動を推進。

5)山川の撒いた物理学の種子が約100年を経てノーベル賞受賞者続出へと
  開花した。 

3、山川家の方々

 健次郎は、祖父重英のもとで進取かつ合理的な家風で育つ、武器の優劣(科学技術の差)で勝敗が決することを会津戦争で体験した。兄浩(東京高等師範校長)、妹捨松(女子米国留学生、大山公爵夫人)など兄弟は各界で活躍した。 

4、顕彰会の活動

 1979年に九州工大70周年記念会津若松座談会を皮切りに2003年まで明専会主催でフォーラムや講演会を開催した。2004年に山川健次郎顕彰会を発足し翌年に胸像建立と生誕150年記念式典を挙行した。その後毎年胸像前での献花祭と講演会を開催。評伝の出版、講演会、地元小学校への出前講義を継続実施している。子供の科学教室開催も計画中である。

5、参考資料

1)山川健次郎顕彰会会報 第8号「士君子の絆に感動する日々」(平成27年10月)

2)山川健次郎顕彰会会報 第10号「士君子の絆に導かれて」(平成29年11月)

3)「日本人と近代科学」、渡辺正雄、岩波新書G67、昭和51年(1976)

4)評伝「山川健次郎」士君子の肖像、山川健次郎顕彰会、平成25年(2013)

5)「山川健次郎と藤田哲也」北九州産業技術保存継承センター、平成26年(2014)

6)「MEISEN SPIRIT」明専会設立百周年記念、明専会、平成27年(2016)

以上

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定例会講演 2018年9月

 

電気二重層キャパシタ<EDLC>の特性とその上手な使い方

 2018年9月
IEEJプロフェッショナル
木下 繁則

・EDLCとは

 電気二重層キャパシタ(EDLC (Electric DoubleLayer Capacitor))は1879年にドイツの生理・物理学者Helmholtz氏が発見した電気二重層現象「電解液に導体を浸すとその導体との海面に電解液の分子一個が並んだ電気絶縁層が出来、その外側に拡散層が広がる形の電気絶縁層が造られる」を応用して、電極の表面にこの電気絶縁層を介してイオンを付着させて蓄電する蓄電デバイス(キャパシタ)である。この蓄電デバイスは1970年代は半導体メモリーのバックアップ電源として基板搭載型のコイン(ボタン)型から実用化が始まった。その後、1990年代に入ってパワー用EDLCが故岡村廸夫氏らによって開発が進められた。その後、リチウムイオン電池技術を取り入れたリチウムイオンキャパシタ(LiC)が実用化された。

 

・特徴

EDLCは電極の表面へのイオンの脱着によって蓄電する物理電池に属する蓄電デバイスであるので、従来の化学電池にはない特徴を持っている。主な特徴を次に示す。

1)充放電サイクルによる劣化は本質的に生じない。2)残存蓄電容量が電圧を図ることによって、直接且つ簡単に知ることができる。3)電圧を0(V)にして保管できるので安全である。4)温度と寿命の関係はアレニウスの法則が適用される。5)時間経過に伴う劣化量は経過時間の平方根に比例する。6)寿命設計や残存余命が簡単に推定できる。 

・性能を表すΩF値

EDLCの性能を端的に表す用語としてΩF(オームファラッド)がある。このΩFはEDLCの内部抵抗値(単位はΩ(オーム))と静電容量(単位はF(ファラッド))の積で、単位はs(秒)である。このΩF値と充放電時間と効率には一定の関係がある。充放電時間が短かくなるに従い、EDLCのΩF値はより小さくしないと効率が悪くなってしまう。例えば、1分程度の充放電時間で充電又は放電時の効率を95%程度にするにはΩF値は2(s)以下でなければならない。ΩFが20(s)のEDLCで1分程度で充放電すると効率は50(%)以下になってしまう。

 

・上手な使い方

EDLCには化学電池にはない上述の特徴があるので、この特徴を活かせる使い方が上手な使い方である。しかし、EDLCは上記した特徴がある一方、リチウムイオン電池に代表される化学電池に比べてエネルギー密度が1/10程度と小さい。このため、EDLCの使い方としては、秒オーダーの短時間で充放電を繰り返えす用途に向いている。パワーエレクトロニクス機器は、過去の実績から今後も13年で大きさが半減する技術進歩が期待される。このことから、EDLCとエネルギー型バッテリーとパワーエレクトロニクスとにより、バッテリーの容量低減、長寿命化が図れる新たな蓄電システムの実現が期待される。

 

・応用事例

現在、EDLC(含むLiC)の特徴を活かした応用が始まっている。いくつかの事例を紹介する。

1)    コピー機への応用:ドラムの急速加熱用電源(スタート時間の短縮)

2)    自動車への応用:・アイドリングストップのスタータ駆動、エンジン車の制動時のエネ
  ルギー回生

3)    AGV(無人搬送車)への応用:搬送車への繰り返し急速充電(ワイヤレス給電)

4)    建機への応用:ショベル機の旋回制動時の運動エネルギー回収(省エネ)

5)    非常用電源:常時は0[V]で保管し、非常時に急速充電する(安全に長期間保管ができ
  る)

 

・今後の展望

今後は電解液の電圧向上、電極材料、構造の工夫による静電容量向上(イオン吸着面積向上)、使用温度範囲の拡大等により、更なる用途拡大が期待される。

以上

 

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定例会講演 2018年4月

 

 

~低落差で発電でき、除塵機が不要な~

らせん水車発電システムの紹介 

 2018年4月
日本工営株式会社
片桐 勝広

 落差1~5m、流量0.2~3.0㎥/秒くらいの地点で水力発電ができたら・・・
それに、水路を流下してくるゴミの除去など手間がかからない水力発電設備があったらいいのに・・・
そんな要望に応えられる「らせん水車発電」。
日本工営では、2015年6月から発電出力30kWを鹿児島県薩摩川内市で実証試験を実施し、2016年度に自社研究所にて模型実験を経て、2017年7月から国産らせん水車発電システムの販売を開始した。
農業用水路の落差工、急流工をターゲットにPRを開始し、約60の候補地点の検討依頼を受けるなど反響があった。
「らせん水車発電」は構造が単純でメンテナンスが容易であること、回転はゆっくり(毎分約30回転)で高速回転機のような振動・騒音がないのも強みだ。

今回の講演では、調査・設計(Engineering)、機器製造・調達 (Procurement)、建設工事(Construction)まで一括してサービスを提供できる日本工営の取組みと、国産らせん水車の特長(強み)の紹介。候補地点検討事例では、画像や図解による適用地点例や設置・取水方法をはじめ、建設コストやランニングコストを示し採算性まで具体的に解説している。
また、らせん水車の歴史の説明では、1930年代には北陸地方を中心に約10,000台稼働しており、主に農業設備(脱穀機、籾摺り機、藁打ち機)の動力源として広く農村で活躍していたこと、その後発動機や電動機の普及により急速に農村から消えていったことの説明があった。農業用水路管理者にらせん水車発電PRに訪問すると、らせん水車を懐かしむ関係者が多いとの説明に共感をおぼえた。

[今回の講演目次]
■日本工営の概要
■日本工営の水力発電関連事業の紹介
■らせん水車発電システムの紹介
 ・概要
 ・実証試験と模型実験
 ・らせん水車の特長(強み)
■らせん水車発電システムの候補地検討事例紹介
■らせん水車の歴史

以上

 

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定例会講演 2018年2月

 

ドイツのエネルギー変革

 2018年2月
IEEJプロフェッショナル
佐藤 信利

 ドイツは再生可能エネルギーを大量に取り入れ、原子力発電を2022年までに廃止する決断をし、国家政策としてそれを実現すべく努力を積み重ねてきている。その成果として、2015年には温室効果ガスを1990年比で27.2%削減し、再生可能エネルギーの電力供給比率を29.5%まで伸ばしてきている。

 日本では、このドイツの成果は隣国の原子力発電主体のフランスから電気を買っているから実現できているとか、再生可能エネルギーの変動は電力品質の低下を招いている、電気料金への不満が渦巻いているとの批判がある。

 この報告では、ドイツ内外で発表されているデータをもとに、日本と比較しつつ、説明した。ドイツは地球温暖化対策を次世代の先進工業立国の実現を目指した国家戦略の中心に据え、エネルギー効率の向上、再生可能エネルギーによるエネルギーの自立、エネルギー節約的な国民経済を実現することにより、国民の福祉に貢献する社会を実現しようとしている。その他の先進国でも、地球温暖化ガスを抑制するためエネルギー効率を改善しつつある国は、経済成長も実現している国が多くある。日本では、地球温暖化対策が発展を阻害することのようにも受け取られ、相変わらずエネルギーの多消費社会で温室効果ガスの絶対値の削減にも消極的である。このままでは、日本は世界の潮流に完全に乗り遅れる危険性があると感じられる。

 以下に、調査結果の概要を記す。

1.温室効果ガスの削減(図1参照)
 ドイツは着実に地球温暖化ガスを減らして来ている。日本は経済の成り行きそのもので、一貫した政策の下に努力しているようには見えない。このグラフが、日本の取り組みの遅れを如実に表していると思う。

ドレスデン情報ファイル(http://www.de-info.net/kiso/atomdata11.html)

2.再生可能エネルギーの普及
 ドイツは再生可能エネルギーの普及のため、系統への接続は優先して行われ、需給調整での出力抑制では既存の化石燃料発電を真っ先に出力抑制し、再生可能エネルギーは可能な限り接続する運用を行っている。再生可能エネルギーを効率よく使うために送電線の増設も計画・推進している。

3.電力の品質の向上
 変動型エネルギーである太陽光発電、風力発電等の再生可能エネルギーが電力発電量の30%を超えるところまで普及が進んでいるが、電力品質の指標の一つである各戸当たりの停電時間は2006年21.53分であったのが、2015年には13分となり、日本の平均時間21分よりも良い結果となっている。変動型電源を制御可能としてきたことの証である。

4.電気料金の上昇
 電気料金は、再生可能エネルギーの導入と卸売価格が低下すると賦課で上がるメカニズムによって上昇してきている。しかし国民は電力料金の値上りにもかかわらず、この政策に高い支持(60%以上)を与えている。これは、十分な説明が国から国民へなされている証であると考えられる。

5.電力輸出
 再生可能エネルギーの導入により、卸電気料金は家庭用電力料金と逆に下がってきていて、欧州の中では最大の輸出国となっている。輸出先は、オーストリア、フランス、オランダなどである。原子力は度重なる安全対策等で決して安い電力ではなくなってきている。

6.電力コスト(卸売価格)の国際比較
 家庭用電気料金は日本よりも明らかに高い。しかし産業用電力価格は日本より安いことが、経産省の国際比較データでも明らかである。ここで留意すべきは、ドイツの電力の卸売価格であり、発電コストが殆ど発生しない再生可能エネルギーの普及の結果、ドイツの電力の卸売価格は日本よりも安くなっている。将来賦課金が低くなれば、低廉な電力が普及することとなり、産業競争力は一段と強くなることが予想される。(日本では今のエネルギーミックスでは高いまま推移しそうである)。

出典:資源エネルギー庁「エネルギー白書2017」より

7.原子力発電について
 ドイツは「エネルギーに関する倫理委員会」で議論した結果として、「使用済み核燃料が原子力発電から何の恩恵も受けない次の世代に負の遺産として引き継がれることは、再生可能エネルギーという代替え手段が有る現状では、継続することは倫理に外れる行為であるとのことで、2022年までに停止する。当初原子力推進派であったメルケル首相も、先進技術を有する日本で原子力事故が起きたことはドイツでも起こりうるということで脱原発を決断した。 

8.結言
 地球温暖化対策は、エネルギーにかかわることではあるが、それを実現するためには、エネルギーシステムは勿論のこと、省エネルギーの観点からはライフスタイルの変革、生産方式の変革とそれを実現する技術開発等を伴うビッグプロジェクトである。日本も積極的に参加し、再び世界に貢献する国になって欲しいと思うのが、この調査からの忌憚のない感想である。

以上

 

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定例会講演 2018年1月

 

夢のある研究を目指そう

 2018年1月
西安交通大学
柳父 悟

 2010年頃東京電機大学に務めていた時、中華人民共和国(以下中国)から来る留学生が大変に多くなってきた。中国は同世代の人口が日本の約10倍以上であったので今後このままでは大変なことになると思った。東京電機大学を定年になった時、西安交通大学に職を求め中国人の今後の傾向を勉強しようと思った。

 先ず日本の国民にとって中国人は何時も値引き交渉をする、あるいは約束を守らない、戦争映画は中国では常にやって居り旧日本人が敵になり日本敵視だとの話になる、また中国の演劇では常に日本が悪者であるなど聞いている。しかしこれは日本人と中国人のやり方、見解の相違である。決して中国人は日本人を恨んでいないことは明確である。

 中国は大変な勢いで成長しており米国を明らかに意識している。また彼らの英語力が大変優れていることが理解できた。また共産党政権は我々庶民には全く影響がないことを理解できた。成長は人真似ではなく、伸びていることも分かったが、オリジナリテイのあるものではないことも分かった。彼らがこのまま成長することは理解でき現実にやっている。現実的には最近のスモッグは大変少なくなってきたと言われている。種々の検討を行った限りこのまま中国は日本を追い越すと思った。これに対して日本が対抗できるには今まで通りの成長をすることと理系のノーベル賞を取得することが必要であることが良く分かった。理系のノーベル賞を取ることが必要なことは儒教の為である。儒教は我々が理解できる領域を遥かに超えている。日本も朱子学として導入されているが徳川家康が科挙(国家試験)武士に限ったことで救われている。その意味では我々は深い儒教は理解できていないし、安易に儒教を理解しているとは言えない。詳しいことは講演で述べたが日本人が対抗できるのは理系のノーベル賞級の表彰であることが理解できる。理系のノーベル賞級の表彰は既に日本人が頑張っていることは事実であるが重要なことは理系のノーベル賞級の表彰を取るべき大学が取っていないことが大変重要である。これを努力して取る方向にすることが大変重要である。これができるのは極一部の大学であるがこれをなくしては中国人には対抗できないことを認識すべきである。私は医学系のノーベル賞級の研究で差し迫った事象(例えば癌あるいは寿命)が重要であると思っている。またここでは触れないが英語力の優れていることは中国人の特徴であるがこれはここでは触れない。この現象は日本語特有であると思っている。

 次に感ずることは自前の研究活動が国際的でないのにあれこれ言う人が多すぎることである。先ず一番大切なことは夢(ゆめ、ユメ)のある研究をすることである。これに関して電力工学をやることに日本の大学は大変遅れていると思う。これはメーカや電力会社の責任でもあると思うが、かってのように自分たちだけでなく夢のある教育が大切である。私のやっている遮断器は現在多端子網の直流送電技術に応用されている。現在遮断器はパッフー遮断器ではなくて、脱SF6遮断器の開発で優れた研究をやることが大切である。また50Hz サイクル遮断器でなく3-4msで急速遮断できるものを目指している。我々は超電導技術も使いこれを目指している。今後は世界中このようなことをやる意味がある。多端子網直流送電は世界的にやるべきことである。このような研究(工学系の研究)を大学は目指すべきである。

 最後に日本人は活きて行くべきであり、中国人、あるいは欧米の人たちも生きて行くべきである。これを忘れて一国だけが伸びるようなことはできるだけ止め、世界共通の発展を遂げることが大切である。世界の人たちがそれぞれの立場のなかで一生懸命できることが必要である。

以上

 

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定例会講演 2017年11月

 

再生可能エネルギーと次世代グリッドの技術動向

 2017年11月
IEEJプロフェッショナル
八坂 保弘

1.背景
 地球温暖化により気候変動が大きくなることが予想され、その対策として再生可能エネルギー導入は不可欠であり、それに関連する太陽光発電、風力発電、それによる電力変動に対応する電力系統技術の動向を概説する。

2.風力発電と大型風車技術
 最近では、陸上のみならず、洋上風力が技術開発されている。福島沖などで実証試験中であるが、強風に強いと言われる大型のダウンウィンド型風車の開発も進められており、5.2MWのものが現在実証試験中である。

3.太陽光発電とメガソーラ技術
 FIT(固定買取制度)の効果で、太陽光発電が飛躍的に導入されてきているが、それにより価格も低下してきている。メガソーラでは、今後、長期間のメンテナンスが重要であり、パネル単位の高精度異常監視技術などが開発されている。

4.次世代送電網について
 次世代グリッドはVRE(変動する再生可能エネルギー)の大量導入による電力変動(ダックカーブなどの長周期変動や短周期変動)への対応が重要になる。そのためには電力貯蔵技術が重要であり、揚水発電所では揚水時にも負荷を制御できる可変速発電技術の導入拡大が期待される。また、蓄電池技術も進歩しており、閉じたグリッドの中で、蓄電池システムを使って電力バランスを調整する技術の実証試験が各所で実施されている。

5.電力系統の安定化
 VREの大量導入で、広域電力系統の安定化の問題も出てくるが、米国等では系統の各点の状態を時間同期して計測できるPMU(Phasor Measurement Unit)の導入が加速し、その応用が期待されている。これらは大量データとなることから、Big Dataを処理して、電力系統の安定制御を支援するための技術も開発されている。

6.直流送電
 直流送電は、電力系統が広域に連系することが、電力の安定供給やコスト低減にも効果があるといわれており、今後、導入が加速することが期待される。現状、日本では他励式の導入が多いが、今後は自励式が増加することが予想される。

7.電力システム改革と将来動向
 電力システム改革は日本で着々と進んでいるが、社会の目的である、電気料金上昇の抑制、温暖化ガス低減、安定供給を評価した上で、制度設計をしていくべきである。技術も考慮した社会的なシミュレーション等を使ったIntegration Studyが重要である。

8.国際標準化について
 以上の新しい技術開発では、常に国際標準化を視野に入れて、グローバルな産業競争力を確保するよう努力することが必要である。例えば、電力用蓄電システム(TC120)の国際標準化では、日本が主導して進めている。

以上

 

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定例会講演 2017年9月

 

東日本大震災以降の送電系統整備状況について

 2017年9月
日本リーテック株式会社
小澤 明夫

 東日本大震災以前の電力系統整備は、電力小売自由化に伴う託送料の低減対策や中越、中越沖地震などの災害対応を主要因とする投資抑制により送電線工事量が急激、大幅に縮小されていた。電線メーカーや金具メーカーは合弁会社設立、鉄塔メーカーもリストラを実施する中、東京電力向け送電工事会社も合弁会社設立により急減する工事量に対応して縮小均衡により施工力をつないできた。(重電メーカーも同様であるが、本講演の範疇外) 

東日本大震災以前の電力系統は個々電力会社内で完結しており、電力会社間の連系は緩やかな(弱い)ものであった。さらに、再生可能エネルギーも大規模な導入も少なく特別高圧送電線によるアクセス線新設は少なかった。しかし、東日本大震災を契機として 

・再生可能エネルギーの大量導入に伴う系統整備 

・50ヘルツと60ヘルツ間の東西連系の強化 

 が必要となった。 

①   再生可能エネルギーの大量導入により、大規模な太陽光、風力の特別高圧によるアクセス線の建設が盛んに行われている。これにより、各電力会社では老朽化した送電線の更新を抑制するほどの業務量となっている。中でも東北電力を例にあげれば、再生可能エネルギーの大量導入により現行の系統規模では受け入れ量を大幅に超えて、東北電力全体の最大電力にも匹敵するほどの接続申し込みがある。そこで、隣接する東京電力との50万ボルト連系線を約160km新設する計画を進めている。さらに秋田と仙台を結ぶ50万ボルト送電線の新設も計画している。 

②   東西連系については、50ヘルツと60ヘルツ間の電力融通を強化する目的で90万kWの容量で200kV飛騨信濃直流幹線の建設が始まっている。さらに既存の周波数変換所の90万kW増強のため、275kV送電線の建替え(約130km)及び新設(約15km)が準備に入っている。 

このようなニーズに対応する送電線工事業界の現状は、先に述べた縮小均衡から抜け出せずにおり、施工力が全然足りない情況にある。 
 

まとめ 

・東日本大震災以降、送電系統構成が変化 

・再生可能エネルギーの大量導入対応に追われている。 

・送電工事業界では、増大する業務の対応に課題が多い。(高齢化、廃業) 

・約25万基の送電線の維持、更新が膨大な業務量、投資になる。 

以上

 

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定例会講演 2017年6月

 

産業用電力系統への取り組み

 2017年6月
富士電機株式会社
壹岐 浩幸
 

 産業用電力系統とは、電力会社の送配電網の末端に接続された大口需要家(主に製油所、石油化学、鉄鋼、パルプなど)の電力系統をいう。対象は、自家用発電設備を複数台有しており電力系統は複雑で、これらの発電設備は電力会社の発電設備とは異なり、工場の生産設備の蒸気を供給調整しながら発電するため、システム制御は複雑である。また、大口需要家内負荷は主に誘導電動機である。このために、送電網での瞬時電圧低下、短期停電などが発生すると、自家用発電設備を持つ大口需要家では系統解列を行い、自立運転状態で大口需要家内の電圧安定性が問題重視さている。これらを踏まえて、産業用電力系統における取り組みについて解説した。

 [目次]

  1.産業用電力系統の概要

  2.産業用電力系統の技術的課題

  3.産業用電力系統の系統解析事例

[内容]

 (1)産業電力系統は電力系統と大口需要家(自家用発電設備を持つ系統)が送電網で連系されている。大口需要家内は、特高受変電設備を持ち、自家用発電、負荷(主に誘導電動機)など、多種多様な電気設備から構成されている。さらに、大口需要家においての自家用発電設備のための蒸気を調整するための用役システムも含まれている。

 (2)技術的課題は、大口需要家から見た供給信頼度と電力品質である。

   ・信頼度は、停電と雷害による電力供給への影響である。

・電力品質は、瞬低と高調波、電磁障害による機器動作への影響であり、瞬低並びに短期停電による大口需要家の停電は、多大な被害額が発生する。

   ・大口需要家は、停電や短期停電に伴う母線電圧低下を回避するために幾つか提案が示されているが、巨額の投資となるため実用的でないのが現状である。

 (3)産業用電力系統解析については、目的ごとに解析事例は異なるが、最も多い解析事例は、瞬低並びに短期停電に伴う系統解列による自立運転時の電圧安定度解析である。系統解析の解析ツールは、海外の解析ツールが多く利用されている。

 

 最後に、産業用電力系統は特高受変電、自家用発電設備、負荷(誘導電動機)などを融合した複雑なシステムであり、大口需要家の電気主任技術者はリアルタイムに系統を監視制御しながら日々仕事をしている。将来は、この分野の工学専門書が出版されることが望まれる。

以上
 
 

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定例会講演 2017年4月

 

電力の自由化について海外自由化先進国に学ぶこと

 2017年4月
IEEJプロフェッショナル
臼田 誠次郎

 日本では2016年4月から電力の全面自由化がスタートした。
 この自由化に伴う一連の改革の中で、将来の電力の安定かつ低廉な供給に課題がないか、自由化先進国から学び、検討を行った。

1.海外自由化先進国の状況

・米国は自由化後にカリフォルニア州で、作為的に需給ひっ迫を作り出し、電気料金を暴騰させ暴利を得たエンロン社の事件が発生。その後自由化を停止する州が続出し、現在では14州が自由化されている。自由化された州とされていない州の料金のレベル差は見られない。

・イギリスは自由化の口火を切った国であるが、自由化後数年は電気料金が下がったもののその後は自由化前のレベルを超えて上昇。また、発電所を建設してもその電気が売れる保証がないため建設が進まず、原子力発電所等の電気を、買い取り保証する等により、電気の不足対策を推進中。

・ドイツでは再生エネルギー(以下再エネ)の買取と自由化及び原子力の廃止が並行して進んでいるが、再エネの賦課金等により一般家庭の電気料金は2000年頃の2倍になっている。再エネは発電量の変動が多くかつ地域的に偏在しているため、周辺国との連系により安定を維持している。再エネの増加に伴い最新鋭の発電所も稼働率が大幅に低下。しかし不安定な電源への補完として廃止は許可されない。

2.これらの先進国の実態を鑑み今後検討すべき事項 

(1) 将来の安定供給の維持

①入札制度のもとでは将来の需要の獲得に関して不確実性が高まり電源の建設に慎重になる。その中で必要な電源を確保するための仕組み作り。

②電力自由化の下で抑制されがちなメンテナンスを確保する諸方策

③再エネが優先されるため,基幹系統の電圧や安定性を維持する重要な役割を負う一方、稼働率が低下する従来型電源及び予備電源の確保策

④異常時、特に大規模天災、大規模事故等での対応のため、自動制御システムの活用と最後の切り札たる技術者の育成。

(2) 電気料金の安定化の諸方策

①日本の高額の再エネ固定価格買取制度により、電気料金の再エネ賦課金は2兆円となり家庭電気料金の1割に迫り、今後ますます増えて20年間続く。この問題をどのように対処すべきかの検討。

②再エネ固定買取制度が終了した場合の再エネの制度問題、及びソーラーパネル廃棄物処理方法・費用の問題等への対応策の事前検討。

(3) 原子力発電の取り扱い

  初期投資が大きいため自由化の中では新設が難しい原子力について、国のセキュリティとしてどのように取扱うかエネルギー全体として議論が必要

⑷  電力システムの運用には、電力・事業・燃料・マネー・規制・制御監視の

 6ネットワークの円滑な機能が必須であり、また設備形成に時間が掛るこ

 と等から経営では短期利益優先の風潮から距離を置くことが重要。 

以上

 

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定例会講演 2017年1月

 

リビングラボを活用した生活機能レジリエント社会の構築
~データ・社会課題・知性分散社会のイノベーション~

 2017年1月
産業技術総合研究所
西田 佳史


 生活者の心身や認知機能の変化に対して、安全性を確保してくれたり、高度な社会参加を回復してくれる「生活機能レジリエント社会」が求められている。最近発展している人工知能技術が、これらの問題解決に新たなアプローチを提供できる可能性を持っている。本講演では、我々の日常生活を取り巻く課題解決に、人工知能技術やそれを支えるビッグデータ技術やセンシング技術(IoT技術)がどのように役立つかの事例を紹介する。また、産業技術総合研究所で進めているスマート・リビング・ラボ(Linked Living Lab)の構想を紹介する。ここでのリビングラボとは、生活の場をセンサ化し、データに基づいた生活科学を可能とする観察装置としての意義と、実際に技術を使う現場の人と人工知能技術を共創する実践の場としての意義を兼ね備えたものである。このリビングラボを用いた事例を四つ紹介し、今後の展望を述べてみたい。

 一つ目の事例は、リビングラボを用いた子どもの行動科学とその活用事例(子どもの安全性に配慮された歯ブラシの開発事例)である。歯ブラシ、箸、ストローなど、棒状のものを咥えた状態で転倒することによる口腔・咽頭部の刺傷事故が発生している。これまで注意喚起はなされていたが、各事象の傷害発生メカニズムの物理的理解、それに基づく製品の改善は行われていない。子どもが生活している空間にカメラを取り付け、行動観察するリビングラボを用いて、転倒時の挙動を詳しく分析すると、転倒時に発生する頭部の速度の最大値のうち頻度が高い速度が1.5[m/s]であることが分かった。このデータと有限要素解析技術を用いることで、転倒時には、過度な力が口腔・咽頭部にかからないように曲がってくれる歯ブラシの開発に結び付いた。インダストリー4.0(または、第4次産業革命)の議論では、どう効率的にモノづくりをするかというHowの議論が中心であるが、何をつくるべきか?というWHATに相当する生活科学と組み合わせることが重要となろう。

 二つ目の事例は、介護施設型リビングラボの事例である。高齢者の靴に埋め込み型のビーコンを用いて高齢者の位置を計測し、行動把握をするためのシステムの検証を行っている。最近、このシステムを用いることで見つかった事例を一つ紹介したい。ある高齢者の活動がある日を境に急激に変化していることが分かってきた。良く調べてみると、転倒事故を起こされ、骨折に起きていたことが分かった。長期的に高齢者の行動のトレンドを分析することで異変が見つかった事例であるが、人がOne to Oneで見守ることは労力的にもコスト的にも無理であるので、こういう課題にこそIoTや人工知能を活用し、人と機械のハイブリッドシステムで見守っていく方向が重要であろう。

 三つ目の事例は、コミュニティと進めるリビングラボの事例である。高齢者の社会参加支援は介護予防や認知症予防の観点からも大きな課題であるが、そのための技術や利用可能なサービスはまだない。そこで、産総研では、生活データを、「社会参加」、「体験」、「感情」、「社会参加に関係した人・モノ・活動」といった要素からなるグラフ構造として記述する方法を開発している。これを用いることで、自分と類似した生活状況(生活構造)を持つ人が利用しているサービスのうち、生活改善に役立ったサービスを探してくれる機能を開発した。機械工学は要求機能を機構に変換する行為であるが、生活デザインの工学とでも呼べる方法論の開発も重要となろう。

 最後の事例は、一般住宅型のリビングラボである。どこにでもある手すりに力センサを埋め込み、手すりのどこを把持したかをモニタリングする手すりIoTを開発した。これを一般住宅に取り付け、1年以上モニタリングしている。そうすると、その人の歩行速度の計測を何千回も行うことができ、より実態にあった計測が可能となる。また、歩行速度が日々どう変化しているかを知ることもできる。88歳の被験者の場合、歩行速度が低下し、寝たきりに至るリスクが高いことが見つかり、その後、食事療法や運動療法で改善させることができた。上述した介護施設型のリビングラボと同様に、パーソナルなモニタリングの事例である。この場合は、さらに一歩すすめ、パーソナルな介入とその効果評価の可能性を示した事例であり、今後、プリシジョン・ヘルスケア(パーソナルな健康状態の把握とパーソナルな生活改善)の方向に、センサや人工知能技術を活用していくことが重要であろう。

上述した四つの事例は、生活機能変化のせいで多様性に満ちた生活問題・それを捉えるデータ・ソリューションを生み出す知性が遍在する社会の到来を告げているように思える。センシング技術や記録技術の発展とその社会への浸透、様々な機関で蓄積されているビッグデータの存在がある。また、人工知能などのデータ分析技術といった人間以外の知性も発展してきている。人側も高い知性を持った人材が、例えば、大学や行政機関などの狭い分野に集まっているわけではなく、様々なセクション、機関、地域、企業などに高度に分散された知性遍在社会を形成している。最近では、リビングラボを用いて、研究室での有効性(efficacy)だけではなく、現場での実効性(effectiveness)の検証を行うような活動も広がってきている。一方で、生活機能変化に伴う様々な社会問題が新たな問題として常態化している。こうしたニューノーマル化した問題に対して、現代社会のもう一つの特性であるデータ・知性の遍在性を活用することで、それに対応した進化した社会へと変換する作業が、今日必要とされているイノベーションの姿であろう。

 

参考文献:西田佳史, “問題・データ・知性の遍在を活用する生活機能レジリエント社会─ニューノーマル呼応型イノベーション─,”人工知能, Vol. 31, No. 3, pp.402-410, 2016

以上

 

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定例会講演 2016年11月

 

加速器電源の開発 ―トリスタン計画からJ-PARCまで―

 2016年11月
IEEJプロフェッショナル
古関PE事務所

古関 庄一郎

  加速器とは荷電粒子を加速する装置の総称であり,高エネルギー物理学,医療など広く利用されている。演者が関与してきた世界トップクラスの性能をもった加速器の電磁石電源について紹介する。

(1) 加速器と電磁石電源
高エネルギー加速器としてシンクロトロンが広く用いられている。荷電粒子のビームを軌道に沿うように曲げる偏向電磁石とビームを収束させる四極電磁石とによってリング軌道上でビームを周回させながら高周波で加速する加速器である。その電磁石電源は,電流変動・リプルが10–4以下の高精度高安定度電源でなければならない。

(2) 高エネルギー加速器研究所 (当時) トリスタン計画 衝突リング電源トリスタン計画とは,当時世界最高エネルギーの30 GeVに電子・陽電子を加速して衝突実験を行い,トップクォークの発見などを目的としたものである。衝突リングでは12 %の電磁石電流で電子・陽電子を互いに逆向きに入射し,電磁石電流を増加させながら30 GeVまで加速,その後そのまま2時間,109回以上周回交差させて衝突させる。このリングの80組の電源を担当した。
電磁石電源は,24パルスまたは12パルスのサイリスタ変換装置で構成した。当時開発されていた二つの新技術,高安定度仕様を満たすための高精度瞬時電流検出器,低リプル仕様を満たすための直流アクティブフィルタを適用した。1分間での加速中のトラッキング誤差10–3以下も満たした。

(3) 放射線医学総合研究所重粒子線がん治療装置HIMAC 主加速器電源
HIMACは世界初の重粒子線がん治療装置である。重粒子線は,がん細胞を狙い撃ちできる特性がある。核子あたり8 MeV,上下2段のシンクロトロン (主加速器) によるビームで水平・垂直照射を行う。この電源を担当した。
電源は,2秒周期で入射→加速→出射を繰り返すパターン電源である。アクティブフィルタでリプルを抑制するだけでなく,制御操作も行う方式を新規開発し,電源の制御周波数特性を数百ヘルツまで拡大した。これによって高速パターン通電を可能とした。トラッキングは繰り返し制御で満たした。

(4) 理化学研究所SPring-8 シンクロトロン電源
SPring-8は,世界最高性能の放射光 (X線) を発生する大形放射光施設である。放射光を発生する蓄積リングに電子または陽電子を8 GeVまで加速して入射するためのシンクロトロン電源を担当した。
HIMAC電源と同様のパターン通電電源である。制御ゲインを高くし,さらにパターンに対応したフィードフォワード電圧信号を入力することでトラッキング性能を満たした。

(5) 高エネルギー加速器研究機構/日本原子力研究開発機構 大強度陽子加速器施設J-PARC RCS電源
J-PARCは,素粒子物理,生命科学など幅広い分野の最先端研究を行うための陽子加速器群と実験施設群であり,その中心は世界最高クラス1 MWの陽子ビームを出射する3 GeV RCS (ラピッドサイクルシンクロトロン) である。そのRCSの電源を担当した。
RCSの電磁石電源は共振回路による25 Hzの交流電流を直流バイアスして励磁する方式であり,1組の偏向電磁石電源と7組の四極電磁石電源とからなる。電源は,IGBTを用いた多重チョッパに進化し性能が大幅に向上した。並列共振方式と直列共振方式との電源を組み合わせて構成した。
このほか,RCSに入射させるための大電流パルス電源,RCSの前段の線形加速器の高周波用電源も担当した。

以上

 

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定例会講演 2016年9月

 

エレベーターの話

 2016年9月
(株)古賀総研
長瀬 博

身近な乗り物として、皆が利用するエレベーターの技術について紹介した。

<高速エレベーターの世界ランキング>

マスコミの話題になり易い最高速度の世界ランキングを比較した。最高速度は技術力を示す指標として、1000m/分を越える速度で日本の大手メーカーがトップ争いを演じている。500m位の高さのビルに適用されているが、この程度の高さでは、最高速度を維持する時間は短く、まさに最高速を競うための速度になっている。耳ツン対策の為、上昇時のみ高速であり、下降時の速度は半分である。一方、米国大手は600m/分までである。建物上層部にロビーフロアを設けるスカイロビーを構築し、その階まで専用のダブルデッキエレでシャトル輸送をする。高層ビルで、エレベーターの占有面積を減らす工夫をしている。

<機械室レスエレベーター>

これまで、屋上機械室を無くすため油圧方式を採用していた。しかし、油圧方式は、効率や乗り心地が悪い。建築基準法の改定により、昇降路内に駆動設備を設ける機械室レス方式が可能になった。機器の小型化が必須であり、PMSM(永久磁石同期モーター)やIGBTインバータがこれを可能にしている。機械室レスエレは、建物への制約が少なくなるので一気に進行し、中小ビル、マンション、さらに、歩道橋、駅舎などでは機械室レスエレが主流になった。巻き上げ装置の設置は、昇降路の壁面上方、下方、カゴ下の配置がある。

<エレベーターの安全装置>

ガバナ、非常止め、バッファにより万一のロープ切れに対応、制御異常で停止をしない場合のための端階リミットスイッチがある。これらは、異常時にしか必要としない。日常的な安全は巻上機のブレーキで確保している。新設エレベーターでは、ブレーキの二重化とその動作を監視する独立した監視装置の設置が義務化されている。これらの安全装置は、最近のオープンタイプのエレベーターで見ることができる。

<エレベーターの豆知識>

エベレーターの乗りかごと釣り合い錘は定員半分でバランスさせ、駆動モーターの容量を低減させている。このため、乗車人員と上下降運転の関係から、モーターは正転、逆転、電動、回生の4象限運転モードを全てとる。機械室レスが適用される低速エレベーターでは回生エネルギーを抵抗で消費させるが、高速エレベーターでは回生コンバータの利用により電源回生させる。

車いす用呼びは、車いす用のエレベーターにしか対応しないため、車いす以外の利用者がこれを押すと待ち時間がかえって増える。

ユニバーサル社会に向けて、車いす利用者の乗降がしやすいようにのりかごの工夫をしている。また、乗り場と乗りかごの間の隙間(シル間ギャップ)の縮減が進み、1cm程度になっている。 

以上
 

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定例会講演 2016年6月

 

ダークマター
~見える宇宙から見えない宇宙へ

 2016年6月
IEEJプロフェショナル
日本科学未来館チーフボランティア
飯能市市民活動センター

萩原 勝夫

 本講演は筆者が日本科学未来館で今まで9年間サイエンス・ミニトークや展示解説の活動の中で特に興味を覚えた一つにダークマターがあり、このダークマターのキーワードで括れるものをまとめたものである。

1. 導入:宇宙誕生の謎の解明につながるダークマターとはどんなものか、またどのようにして獲えようとしているかについて述べる。どんな手段を使っても未だにその姿を見ることが出来ないダークマター。このダークマターこそが現代の物理学に立ちはだかる大きな謎の一つである。 そしてこのダークマターを調べようとする実験や研究がいろんな方法で行われている。

2. SUMIRE計画:SUMIRE」計画では、「すばる望遠鏡」に画素数9億ピクセル、重さ3トンを超える世界最高性能・超広視野カメラであるハイパーシュプリームカム(HSC)を新たに取り付けて観測する。ダークマターがどのように分布しているか,宇宙に広がる銀河の三次元地図から導き出そうとしている。その観測成果に期待したい。

3. XMASS実験;地下深く1000mの所に約800トンの大きな水槽の中に、液体キセノンが入った検出器がある。ダークマターが、このキセノンの原子核にぶつかると、原子核が跳ね飛ばされて光を出す。その光をつかまえて、ダークマターを調べる。1年間じっと待ち続けて、2、3回当たってくれたら万々歳。そんな気の長い実験である。

4. LHC:ダークマターを地上で作ってしまおうという実験も行われている。スイスにある全周は約27kmもある巨大なもので、世界最大の加速器LHC(Large Hadron Collider)である。山手線の全長が34.5kmであるからほぼそれと同じくらいの規模である。ダークマターが実験室で作れるかもしれない。

5. ニュートラリーノ:ダークマターの最有力候補とされている「ニュートラリーノ」は、超対称性粒子の3種の集まりで「フォティーノ」、 「ジーノ」及び「ヒグシーノ」である。ニュートラリーノも大変重い素粒子だと考えられ、質量は陽子の1000倍ともいわれている。

6. 結び: 宇宙・天文というマクロのスケールでの分野ではじまったダークマター探し、現在では素粒子物理学というミクロのスケールでの分野で探している。この分野を超えた素粒子の研究によって、宇宙を構成する物質や、私たちの住む星・銀河がどのように誕生したかについて、新たな発見があるかもしれない。

 

以上

 

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定例会講演 2016年4月

 

きらめく工業高校と電気学会

 2016年4月
東海大学名誉教授、電気学会フェロー
大屋 芳史

  本講演では、まず、参考資料1)より「学習塾の講師8人で東京都内の工業高校を訪問した。・・・工業高校の合格基準は、同じ学区の最も入りやすい普通科高校と同程度か、それ以下。先月発表された志願校調査でも募集数の0.97倍の志願者しか・・・。だが授業を見て驚いた。生徒たちは真剣そのもの。・・・」を紹介している。次に、参考資料2),3)より、工業高校生がきらめく人生を送れるよう教育している現状と電気学会学術奨励賞とを紹介し、電気学会発展に必要な課題と一解決策を今後の課題として提案する。講演項目は、
(1) 将来を保証する工業高校
(2) 競い 高校生ロボット相撲大会(文部科学大臣賞・経済産業大臣賞)、高校生ロボットアメリカンフットボール大会(文部科学大臣賞・経済産業大臣賞)、ジャパン・マイコンカーラリー(文部科学大臣賞・経済産業大臣賞)
(3) 培い 高校生技術・アイディアコンテスト
(4) 高め ジュニアマイスター顕彰(経済産業大臣賞)
(5) 極め 高校生ものづくりコンテスト、旋盤作業部門(経済産業大臣賞)、自動車整備部門(国土交通大臣賞)、電気工事部門 (厚生労働大臣賞)、電子回路組立部門 (厚生労働大臣賞)、化学分析部門(文部科学大臣賞)、木材加工部門(農林水産大臣賞)、測量部門(国土交通大臣賞)
(6) 育てる 海外研修、指導者養成講習会等
(7) 公益社団法人全国工業高等学校長協会のご紹介
(8) 電気学会学術奨励賞のご案内
(9) 今後の課題
 (1)の将来を保証する工業高校では、若年者の雇用情勢が大変厳しい状況でも、日本の産業を支える専門学科の高校生達は、日頃から専門の学習ならびに様々な資格取得を通して自ら社会で活躍できる実力を高めるために一生懸命努力し、充実した学校生活を送っていることを、紹介している。
 特に、産業構造や経済情勢の変化に伴い、ものづくり企業の生産工場が海外に移転し、ものづくり産業において工業高校生達の環境が厳しくなると考えられています。就職や就職後の離職率等を調査した結果、報道等で分析されている様子と違って、工業系高校生の就職内定率は、100%に近く、3年後の離職率は、大学生の離職率に比べて遥かに低い結果となっています。

若いとき、特に感受性が強い高校卒業までに何かしらのスキルを付け、将来への展望を得ることが、若い人たちの活力の源であると言われています。工業高校においては、そのための多様な活動(2)(3)(4)(5)(6)を生徒たちに提示・支援し、生徒の能力の向上に向けて資格取得や競技会・コンテスト等にチャレンジさせ、一人一人の意欲や活力の向上を目指しています。

(4) 高め ジュニアマイスター顕彰では、資格の取得や競技会等での成果を表彰することにより、生徒の意欲と技能・技能の向上を目的としています。そして、この顕彰では、主に工業教育に関わる資格、競技会、コンクール等200項目程度を選定し、その難易度や重要度を点数化し、表(区分表)にして、工業高校生が取得した点数が30点以上:ジュニアマイスターシルバー、45点以上:ジュニアマイスターゴールドとして称号を認定委員会が付与しています。また、特に優秀な者のうち、認定委員会が選定し、経済産業大臣賞が授与されます。この制度が大学や企業からも注目されるようになったことなどを、紹介している。

(8) 電気学会学術奨励賞のご案内 電気学会では今後の電気学術を担う若者の育成の観点から,工業科目を専攻している高等学校生,高等専門学校生を対象に,電気主任技術者試験合格者の努力成果を表彰する制度を平成23年度より制定して以来,全国の各校より毎年度多数の申請をいただき,その栄誉を称え表彰しており、これを紹介している。

(9) 今後の課題 主なる課題として

1) 電気学会と工業科目を専攻する高等学校生,高等専門学校生、大学生並びにそれらのOBとを結び付ける対策を企画し、電気学会の発展に貢献する方策の策定。

2) 電気学会誌にこれらの方々が、電気学会の会員になって読みたくなる情報の掲載。

3) たとえば、電気主任技術者の受験講習・勤務状況・管理経営状況など

 

参考資料 

1) 日経新聞:「挑む、授業真剣、就職は超良好」2016年2月1日、20面

2)公益社団法人全国工業高等学校長協会:「きらめく工業高校」

 https://zenkoukyo.or.jp/index_print/info_pub_kirameku/

3) 電気学会:「学術奨励賞のご案内」

 http://www.iee.jp/?page_id=5905

 

以上

 

 

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定例会講演 2016年2月

 

災害に強い地域主導のエネルギー供給ネットワークの構築
~ シュタットベルケに見る地域密着型社会サービス ~

 

2016年2月
早稲田大学 理工学術院
名誉教授 横山 隆一

 自然災害に起因する大規模な電力不足を経験したことにより、家庭、事務所、工場、地方自治体は、電力会社に全面依存しない自前の電源を確保しておくことの必要性を痛感した。そこで、再生可能エネルギー有効利用への期待が大きいが、太陽光や風力発電等を用いた電源を大量に導入すると,その発電出力の変動が電力ネットワークに影響を与え、電力品質(周波数、電圧)を悪化させることが懸念され、新たな電力供給社会インフラの考え方が必要となる。特に、地域自治体が主体となる地産地消型電力供給システムの開発においては、大規模で高価なネットワークを一度に作るのではなく、地域や市街落特性に合わせた適正規模の供給ネットワークを作り、必要に応じて随時のネットワ-クを増設し、相互間を連結してゆくという方式が適している。このような地域自治体所有の「おらが村発電所」を中心に、行政機関、病院、警察、学校、避難所、通信基地、高齢者住宅を完備すれば、大規模な自然災害時にも必要とするライフライン(電気、水、通信)が確保できる。この能力は「Resiliency:回復力」とよばれ、今後の社会インフラ構築の指針となってくる。この考えは、今進められている東北の被災地の復興にも活用されるべきことを述べた。一方、日本では、2016年に電力の小売り全面自由化が予定されているが、どのような発電事業者が市場で生き残り、どのような市場が構成されるかは不透明である。先行事例として、1998年に全面電力自由化に踏み切ったドイツを見ると、4大電力会社と競争市場では不利と予想された地元電力会社約900社がしのぎを削っている。このような地元電力会社は、シュタットベルケと呼ばれ、19世紀以降、民間や個人では対応できない電力、ガス、熱、水道、交通といったインフラの整備と運用をおこなう公共サービス事業体である。我が国でも、2015年3月に(株)シュタットベルケジャパンが会社設立され、地域での再生可能エネルギーの活用や雇用の創出など地域への貢献を図っている。地方自治体では、人口減少による過疎化や税収減少、少子高齢化による農業・林業・水産業等の第一次産業の衰退、公共施設やインフラ設備の老朽化など多くの問題が顕在化している。我が国でも、電力会社に全面依存しない地域主体の社会インフラの構築が望まれており、地域ニーズに合致したエネルギーサービスと再生可能エネルギー地産地消を目指すシュタットベルケ型事業体を展開し、地域に密着したエネルギーサービスを実現することができれば地域経済の活性化が期待できることも述べた。

以上

 

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定例会 2016年1月

 

回転電気機械の系譜

 

2016年1月
矢田 恒二

 

 筆者による上記表題の著作の紹介を行った。この書籍は人類が磁気・電気を意識した頃から書き起こし、ヨーロッパで確立された電気技術が我が国にもたらされた19世紀末までの回転電気機械の技術史である。ここではこの中からエルステッドが電流と磁気の関係を発見した1820年から直流機械がどのようにして発展してきたかを紹介した。

 コペンハーゲン大学にいたエルステッドの発見は瞬く間にヨーロッパの物理学者の間に知れ渡ったが、特にフランスに於いてアラゴ、アンペアなどにより電流、磁気、力の関係が理論的に整理されたのはよく知られている。しかし直流機械の初期のモデルはドイツのシュバイガが作った検流計に求められる。これはその後電流計へと展開されるが、電動機への道筋を付けたのはハンガリのイエドリックであった。彼は整流器の発明者でもある。

 一方、フランスでの理論研究はイギリスのファラデイの精緻な実験で補強されて電磁誘導の発見に結びつき、さらにスタージョンの電磁石の開発につながる。このことは電気によって強い力が得られることの発見であり、電磁石による力学的利用の試みが様々に展開された。当時の原動機は蒸気機関であった事から、電磁石による吸引力はクランク運動によって回転動力を得る方向に注力されいろいろな方法が開発された。それとは別に電磁吸引力を利用して回転運動を直接実現する方法も追求された。それは吸引力が働く距離が小さい電磁力の特性を、慣性力を利用して補うものであった。しかしこの時代の電源は電池であったために、電磁石を使った原動機の運転時間には限界があった。

 この欠点を補う物として電磁誘導を使った発電装置が考え出されるが、それはアンペアの実験をヒントにピクシが作ったのが最初とされる。しかしここでの発生電流は交流であった。当時は交流の用途はなかったために、これを直流に変換する装置として整流器を必要としたが、電動機で使われたイエドリックの考えた整流器とは別の形式が考えられた。そして多くの試みがなされたが、今日のような整流子の形態になる迄には1870年のグラム迄待たねば成らなかった。ここでの発電機の界磁極は馬蹄型磁石から始まり、二極界磁方式を基本にした物が主流であった。そして電機子の形態もポール型方式が試みられている。そのような開発の中で自励発電機方式が考え出され、直流発電機の基本技術が整った。

 グラムはパチノッチが1864年に考えたリング型の鉄心構造による電機子と、その巻線方法を確立したこと、それに発電機と電動機の互換性を発見したことで知られるが、互換性に関しては必ずしもグラムの業績とはいえない。しかしこの知見は電磁石の吸引力をよりどころにして開発されていた電動機に新たな発展の道筋を付けることになった。一方、リング型電機子は磁気効率と、電機子の冷却に難点があり、これを避けるための種々の試みがされたが、アルテネックが考え出した円筒型電機子によってその後の直流機械の基本構造が定まったといえる。

 直流による発電技術の確立は当初は照明用電源としてエジソンによる配電事業が商業化されたが、別途開発された交流発電技術に其の役割が交代させられる。しかし、直流発電機の開発と供に確立された直流電動機技術は電気鉄道にその用途を見いだし、19世紀末から始まった電気鉄道事業の発展に貢献した。


 矢田恒二著「回転電気機械の系譜」(送料とも3300円)がご入用の方は以下にご連絡ください。

hce00011@nifty.com

以上 

 

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定例会講演 2015年11月

 

事例12:「訓練と非常事態時の行動(ハドソン川の奇跡)」を題材に

 

2015年11月
日本工営株式会社
電気学会倫理委員会 教育WG幹事
鳥養 茂氏 名

技術者倫理教育で活用されるケースメッソドには失敗事例を取り上げたものが多い。技術者倫理事例集(Ⅰ)を活用した研修会のアンケート等に良い事例も取り上げてほしい・・との意見が多くあり、事例集(Ⅱ)作成に際して良い事例の一つとして本題材を取り上げた。「新幹線の地震対策」も同様の事例として取り上げているので合わせて参考にして頂きたい。

1. 倫理委員会技術者倫理「事例集」の狙い

人は倫理的判断を要する場面に遭遇したとき、自らの倫理観に基づいて判断する。電気学会は電気技術に関わる人たちが、そのような場面に遭遇したときのよりどころとなる「電気学会倫理綱領」と「電気学会行動規範」を持っている。この綱領、規範をよりどころとして判断できるようにするためには、倫理的判断を要する事例を用意し、その事例を客観的に評価、あるいは主観的に考察する練習が有効とされている。倫理委員会では、この練習をするための教材として「技術者倫理事例集」を作成し、さらに大学や企業などにおける技術者倫理研修を企画あるいは講義する方に限定して、講義時の感想を提出していただくことを条件に希望者へティチングノート(TNノート)ならびに研修用パワーポイント集(PPT集)を無料配布している。

2. 事例12の狙い(PPT集からの抜粋)

省力化,自動化が進む現代社会において,安全へのリスクを低減させるために各種マニュアルを整備し,訓練することにより事故を未然に,あるいは最小限にすることが求められている。このような社会において,マニュアルにない(想定していない)事象が発生した場合の対処方法については十分対応ができているとは言えない。東日本大震災における原子力発電所の事故においても同様なリスクが潜在していたものと考えている。

本事例は複雑で巨大な航空機業界のシステムのなかで,操縦技術だけではなく様々な関連知識を習得した機長が,マニュアルにない事象に遭遇した際に落ち着いて状況を判断し不時着水を決断したこと,ベテラン客室乗務員の的確な対応により短時間に全員を機外に脱出させたこと,さらに迅速な救助活動がなされたことにより,奇跡的に全員が生還できたケースである。また地上から支援した空域管制官の落ち着いた対応についても学ぶべきものがある。私たちは複雑で巨大なシステムの中で,たゆまない技術の研鑽・訓練により,想定していない事象に遭遇した時でも「リスク」を軽減させることができることをこの事例を通じて学んでいただきたい。

3. 事例の概要(事例集Ⅱ 事例12の抜粋)

2009年1月15日15時3分,ニューヨーク発シャーロット経由シアトル行きUSエアウェイズ1549便(機種:エアバス社A320-214)は,ほぼ満席の乗客150人を乗せ,ニューヨーク ラガーディア空港の出発ゲートを離れた。離陸から約2分後,両エンジン同時バードストライクが発生し飛行高度の維持が不能な状態に陥った。機長はただちに引き返そうとするが,飛行状態から引き返せないと判断した。地上管制官は周辺の空港情報を伝えるが、失敗した場合の被害などを想定し機長はハドソン川に降りることを決断した。エンジン再始動を試みつつ制御システムのアシストを受けながら、時速約232 kmでハドソン川に不時着水した。機体は一部が損傷,着水後まもなく後方から浸水しはじめた。客室乗務員は前方左右の2か所と機体中央にある非常口から乗客を両翼上に誘導,短時間で全員を機外へ脱出させた。機長は航空機の停止操作を終えてから,客室に移動し乗客が取り残されていないかを確認してから最後に機外に脱出した。着水現場では最初に周辺のフェリーが救助活動にあたった。乗客乗員全員が脱出後、着水してからは約1時間後に機体は水没した。

この事故による死傷者数は,死者0名,重傷者5名,軽傷者95名であった。

4.「考えてみよう」について

事例の各編にはあらかじめ読者に考えていただきたい設問を用意している。教育・研修を効率的に進め、かつ良い成果が出るよう議論してほしい点を記述しているもので、別冊のTNノート・PPT集の中では各設問のポイント等を解説している。

5. 補助教材について

①PPT集:大学や企業などで教育・研修を企画したり、講義したりする人を支援するため、事例毎PPTを用意している。事例毎に、事例の狙い、事例内容の補足説明、参考文献、倫理綱領・行動規範との関係についての4項目で構成している。カスタマイズ(内容に影響がない範囲において)して活用できるようにあらかじめ作者の著作権に関する承諾をいただいている。詳しくは事例集を参照

②TNノート:事例研修を行う際の関連情報をまとめた資料で、研修担当者の講義準備作業を軽減することなどを目的としている。①②とも必要により無料配布しているので学会事局に問い合わせしていただきたい。     

 

事例12作成にあたっての主な参照資料

(1)「ハドソン川の奇跡 機長,究極の決断」C.サレンバーガー著:

十亀洋訳,2011年1月,静山社文庫

(2) 「Loss of Thrust in Both EnginesAfter Encountering a Flock of Birds and Subsequent Ditching on the Hudson River US AirwaysFlight 1549 Airbus A320-214,N106US Weehawken, New Jersey January 15,2009」NTSB AccidentReport NTSB/AAR-10/03, PB2010-910403

(3) 技術者倫理事例集(Ⅰ)(Ⅱ)  電気学会倫理委員会 オーム社

*鳥養とりかい 茂(正員)

1972年3月武蔵工業大学電気工学科卒業(現在の東京都市大学)  
現在は日本工営株式会社に従事
技術士 電気電子部門(発送配変電)専門は遠方監視制装置

以上

  

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定例会講演 2015年4月

 

メタエンジニアリングが拓くスマートグリッドビジネス

 

2015年4月
日本経済大学メタエンジニアリング研究所長
鈴木 浩

これからの社会の一層の発展にはイノベーションが必須であることは論を俟たないが、実際にイノベーションを開花させるのは必ずしも容易ではない。

このため、講演者の鈴木氏はこのイノベーションをシステム的に支援する視点として「メタエンジニアリング」を提唱し活動を進めており、今回はこの概念の意味合い並びにこの概念を基にしたスマートグリッドビジネスでの具体例について講演を戴いた。

シュンペーターによればイノベーションとは、①創造的活動による新製品の開発、②新生産方式の導入、③新マーケットの開拓、④新たな資源の獲得、⑤組織の改革であり、いうなれば既存の価値を破壊して新しい価値を創造していくことで、技術革新というよりも新しい結合により実現させるものとしている。

鈴木氏はこの新しい結合を見出す手法としてメタエンジニアリングのMECIプロセスを回すことの重要性を指摘している。即ち

Mining(地域社会に潜在する課題やニーズの発見・定義)→Exploring(解決に必要な知と感性領域の俯瞰的な特定)→Converging(技術と学術に基づく領域の結合・融合による解決案の創出)→Implementing(解決案の社会への実装による新たな社会的価値の創出) である。

特にニーズの発見ではWhatやHowの背後にあるWhyの重要性を指摘している。

また、スマートグリッドビジネスについては、従来のハードウェアに対し近年発展が著しいソフトウェアを融合することにより多くの価値を創造することができる時代となり、その実装する規模も従来はハードとソフトがほぼ半分ずつであったものから、ソフトをハードの3倍くらいにすることによりスマートが実現できるとしている。

電力システムでソフトパワーが拡大していく例として、オブジェクト指向に基づくネットワーク資産管理、リアルタイムの電力系統各所の位相計測による広域(安定)状態の可視化等の紹介もあった。

その他、物語の各要素を組み替えることによる違った物語の創出(シミュラークル)等の新たな組み合わせの手法や、スマートメータにより実現できる新機能等興味深い話もあり、質疑応答も活発に行われて盛会裏に講演が終了した。


    本文執筆は日本工学アカデミー会員 臼田 誠次郎氏

以上

  

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定例会講演 2015年2月

 

新幹線の誕生とリノベーション
~電力供給システムを中心として~

 

2015年2月
元JR東海総合技術本部長
元新生テクノス㈱会長
関技術士事務所
関 秋生

  昨年10月新幹線は開業50周年を迎えた。その歴史を振り返ると、前半の国鉄時代は高速鉄道のパイオニアとして“苦難と栄光の歴史”であった。特に、架線事故はひとたび事故が起きると復旧に長時間を要し、しばしば社会問題となった。本講演ではき電回路と架線からなる電力供給システムを中心としてその開発からリノベーションまでの経緯を述べる。

 新幹線建設基準調査委員会は、き電回路に在来の交流電化で実績のあるBT(ブースタートランス)方式を採用することに決めた。また架線については、トロリー線とパンタグラフの間で離線が起きないことをめざして新たに開発した合成コンパウンド方式を採用することに決した。BT方式の採用を決めたすぐ後に、在来線においてBTを設置するために設けたブースターセクション(BS)で大負荷電流が流れた際、吊架線の素線切れが発生し、大電流負荷の新幹線においてもBSにおけるアーク抑制対策の研究が始まった。昭和38年10月鴨宮モデル線で新幹線の試験車両を使って試験したところ、従来のBSではアークの熱によりパンタグラフのすり板が東京~新大阪間1往復も持たないことが判明、根本対策が必要となった。そこで急遽考案されたのが抵抗セクション方式で、その実現のため架線として“ひねりセクション”が考案され、全線一斉に改良工事に取り組み、何とか開業に間に合わせることができた。

 昭和39年10月の新幹線開業後、12両6パンタグラフ搭載の営業列車が走りだすと架線が予想を超えて激しく振動し、架線金具のボルトのゆるみ、脱落、線条類の摩耗、疲労による断線故障が頻発した。また強風下では架線金具にパンタグラフが衝撃し、損傷する事象も多発した。これに対し電力関係職員は一斉点検、設備改良を繰り返した結果、開業後3年を経過するころから運行は安定し、昭和45年の万博輸送を無事こなした。しかし昭和47年頃から電気のみならず保線、車両においても事故が多発するようになり、とりわけ架線事故は影響の大きさから目立った。昭和49年8月、事故が連続したため運輸大臣から国鉄に対し警告が発せられ、10月に「安全確保に関する対策」が国鉄から報告された。その中で、架線関係について強風区間と駅構内を対象に重架線化工事をする旨報告された。

 重架線方式は、東海道新幹線の経験を踏まえて山陽新幹線向けに開発した架線方式で、架線の張力を上げ、パンタグラフ通過時の架線の押上量を抑えた。同時に、東海道新幹線で構造が複雑で保守上問題となったBTき電方式に代わってBSの不要なAT(オートトランス)方式を開発した。これ等の方式は、山陽新幹線新大阪~岡山間に導入され、非常に安定して稼働した。その実績を踏まえ東海道新幹線にも重架線を導入することにした。その後、昭和53年には新幹線輸送障害対策委員会が開かれ、その結果、全線にわたって重架線化を推進することが決定された。しかしその後もBSでの架線事故は続き、社会問題化したのち、昭和59年7月ようやくAT化の設備投資が承認された。

 一方、新幹線のパンタグラフの数を減らすべく昭和56年に山陽新架線で、昭和59年には東北新幹線でその試験を行い、架線事故防止のみならず騒音、電波障害防止にも大変効果があることが分かった。東北新架線上野開業からパンタグラフの数を半減化して240km/h運転を開始した。

 また、新幹線では、定常的にアークが発生させながら集電をしていたが、昭和63年にJR東、東海、西でSpark Suppressionプロジェクトを設け、その原因を調べたところ、パンタグラフのすり板幅に問題があることを突き止め、東海道、山陽新幹線のパンタグラフすべてのすり板幅を25mmから40mmに取り替えたところ半年後にはアークはほぼ消えた。

 JR東海は会社発足後まもなくの1988年1月新幹線スピードアップ・プロジェクトを立ち上げ、東京~大阪間を最高速度270km/h、二時間半で結ぶことを決めた。その実現の大前提として安定した電力供給システムの確立と、環境基準のクリアが必要であった。安定した電力供給システムの確立はHC化の完成(1989年2月)とAT化の完成(1991年3月)により達成され、同時にパンタグラフ数の半減化とすり板の40mm化により環境基準のクリアも可能となった。これで新幹線の電力供給システムのリノベーションは完成し、1992年3月から700系“のぞみ”の270km/hの営業運転が始まり、その後700系、N700系等の飛躍的な発展を支えた。

以上

 

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定例会講演 2014年9月

 

知的財産権訴訟における新しい専門委員制度

 

2014年9月
IEEJプロフェッショナル
森末 道忠

 

 近年極めて関心が高くなった特許に絡む知的財産権訴訟において、世界に例を見ない日本独自の専門委員制度が、制度の制定当初から実際にその委員として携わってきた筆者の経験をもとに、説明されている。
 そもそも知的財産権は、一国の経済をも左右するけん引車の一つであって、それに関連する訴訟は近年熾烈さを増し、その分野も最先端技術を含んで多岐にわたっている。国はその対応策として、2003年に民事訴訟法を改正して特許権等に関する訴訟の専属管轄化を図り、専門委員制度を導入して裁判の審理判断の適正化と処理の迅速化を進めた。
 この講演は、二部に分かれており、第1部では知的財産権訴訟についての一般的な事項、第2部では専門委員制度についての実状を詳細に述べた。

第1部・・・裁判で取り扱う知的財産権は①技術型(特許権、実用新案権等)と②非技術型(商標権、著作権等)の二種類があり、訴訟には①民事訴訟(知的財産権に対する損害賠償と侵害行為の差し止め)と②行政訴訟(特許庁による審決取消し)の二つがある。民事訴訟の例としては①青色発光ダイオードに関する訴訟のような会社従業員の職務発明に関する訴訟と②スマートホンをめぐるアップル社とサムスン社との会社間の特許侵害訴訟がある。
 現在の各国における国内特許出願数、国際特許出願数、また会社間の知財関連訴訟件数を示して中国の台頭と日本の伸び悩み傾向を示した。さらに、日本の知的財産高等裁判所の概要を述べ、その設立の経緯や構成、また訴訟の処理件数が審決取消訴訟では年間400件~450件、民事訴訟では100件余りである現状を示した。

第2部・・・専門委員の目的は、訴訟における「争点整理などの手続き」に際し、裁判官や当事者に対し争点になっている専門的技術について「説明」を行うことである。専門員の身分は非常勤の国家公務員で、総勢約200名(2014年1月)、大学教授(含OB)、官民の研究者、弁理士などから選任されている。専門委員の事件への関与は、裁判所から当該事件の技術分野を専門とする委員に関与の意向打診があり、受諾の上は被告・原告当事者の意見を踏まえて決定される。事件の関与が正式に決定されると「事前準備」として当事者間の訴訟記録の写しが専門委員に送付され、委員はその多量の受付資料を精査して、①争点の明確化と②争点についての必要な証拠調べを行う。この場合、特許訴訟においては出願当時の技術常識と特許の進歩性や新規性の判断が必要になる。そして「弁論準備手続期日」(技術説明会)に出頭して、裁判における争点の明確化と円滑な進行を図るため専門的な技術について「説明」を行い、裁判官や当事者にたいしてアドバイザーの役目を果たす。この結果裁判官は判決についての心証を得て、後日判決が言い渡される。なお技術説明会は、裁判官、調査官、専門委員(2~3名)、原告・被告の関係者(弁護士、弁理士、技術者等)から構成され、当事者からの技術内容などの説明や主張、それについての質問や討論が行われる。

以上のように専門委員制度の詳細を説明し、今後電気学会プロフェッショナルの一つ課題として、知的財産権についての啓蒙活動の推進があることを述べた。

以上

 

 

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定例会講演 2014年4月

 

レアアースその後

 

2014年4月
IEEJプロフェッショナル
熊田 稔

 

以前、2008年11月に、この委員会で、また、2011年12月に、東京都立産業技術研究センターとの連携セミナーで、『レアアース』に関する講演を行った。

今回は、その後について、述べた。

 

永久磁石は、電気機器の非常に多くに用いられ、必要不可欠ともいえる材料となっている。

永久磁石としても、フエライト、アルニコ、サマリュウムコバルト、ネオジムと、特性の優れた磁石が、順次、開発され、その能力は、当初の10倍以上に向上したといわれている。

その主力磁石となっているネオジム磁石に必要不可欠なのが、レアアースのネオジム元素及びジスプロシウム元素である。

しかし、その両元素の原材料価格が、2011年頃には、2009年頃に比し、20倍を超えるという状況となり、これらの磁石を使用している電気機器のコストに、非常に大きな影響を及ぼしている。

この原料、特にジスプロシウムの主要産地は中国であり、生産量の97パーセントを占めると言はれている。その価格は、中国の輸出政策などに左右されるところが大きい。

 

一方、現在、特性が、最も優れていると言はれているネオジム磁石が、1980年初頭に発明されて以来、次世代磁石というのは、現れていない。

 

〇 今まで、15年から20年くらいの周期で、新しい磁石が発明されているが、ネオジムの1980年以降、今のところ目立った動きはないが、今後の可能性は?

〇 ネオジム、ジスプロシウムを使わない磁石の応用技術の進歩は?

〇 ジスプロシウムは、中国の独占状況であるが、今後は?

〇 世界のマーケットの非常に大きなシェアを持つ日本の永久磁石産業は、その品質と製造技術の優位性を保てるか?

〇 リサイクル、リユースの現状、将来は?

 

などに関し、見解を述べた。

以上

 

 

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定例会講演 2014年2月

 

超電導電力ケーブル開発の現状

 

2014年2月
IEEJプロフェッショナル
藤原 靖隆

1.1960~70年代の地中送電線路の大容量化のニーズ

 この地中送電線路の大容量化ニーズに対応して、半合成紙、あるいは強制冷却技術などの技術開発が行われて実用化された。その大容量化技術の一環として、極低温抵抗ケーブルの開発も行われたが、この技術は超電導ケーブルへの繋ぎの技術という意味もあり、通常のアルミ導体などを液体窒素で冷却して大容量化を図る技術であるが、実用化までには至らなかった。しかし、長尺のケーブルを液体窒素で冷却する技術に対して多くの知見が得られ、その知見は現在進められている高温超電導ケーブルに活かされている。

 

2.高温超電導電力ケーブル開発例の概要

 

3.まとめ(感想)

(1)超電導電力ケーブルは、目的に応じてAC用とDC用両面で開発が進められている。

(2)使用する超電導材料は、ビスマス系からイットリウム系へ移行している。

(3)MgB2を適用し、冷媒にLH2を使用して、電気エネルギーと熱エネルギーをハイブリッドで輸送する開発も行われている。

(4)送電用ケーブルは、超高圧分野より66~77kV系以下の分野での開発が多い。また、22~33kVの配電分野では、同軸タイプのケーブル開発も行われている。

(5)国内では未だ検討が少ないが、海外では限流機能を持たせた超電導ケーブルの開発も進められている。

(6)超電導ケーブルの出荷試験として、従来ケーブルのような枠試験(全長耐電圧試験など)の提案がなく、ケーブル全長の健全性を如何に保証するかが課題と思われる(推奨案では1mのサンプル試験)。

以上

 

  

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定例会講演 2013年10月

 

最近の鉄道分野における国際規格の動向

 

2013年10月

IEEJプロフェッショナル
長沢 広樹

1.鉄道分野の概況

 IECには、鉄道分野の専門委員会 TC 9が古くから設置されており、80件以上の規格が作成されてきたが、現在も活発に活動している。一方、ISOにはこれまで鉄道技術の専門委員会がなく、レールや車輪・車軸材料の分科会 TC17/SC15がある他は、乗り心地など30件弱の規格が複数の委員会で分散して作成されてきた。しかし、2012年に鉄道分野の専門委員会TC 269が設置され、本格的な活動が始まろうとしているところである。

 TC9もTC269も欧州のメンバ国が多く、日本としては会議での話し合いに注力している状況である。特にTC9では、CENELECから多くの欧州規格が迅速手続きによって提案されている。

2.日本の取り組み状況

 国内では、(公財)鉄道総合技術研究所に鉄道国際規格センターが設けられ、関係する会員各社による支援を受けてIECとISOへの対応を行っており、次のような活動を展開している。

(1) IECおよびISOの規格審議

 新しいISO TC269設置においては、TC議長を日本で担当している他、TCの運営会議等に積極的な対応を行っている。また、日本からの新たな規格提案や主査の獲得にも取り組んでいる。

(2) 国際標準化の人材育成

講演会等の開催や標準化活動に関する表彰制度への候補者の推薦を通して、人材育成が図られている。

(3) 海外関係者との連係推進

 IECやISOの国際幹事等との情報交換や、欧州・北米・アジア地域との連係推進が進められている。特に東南アジアの各国におけるセミナーの開催や情報交換が行われており、アジア地域の連係を目指している。

なお、鉄道システムの輸出等においては、規格開発と並行して、技術コンサルティングや安全認証の活動も重要であり、国内の施策として進められている。

3.今後の活動に向けて

 国際的な鉄道ニーズはこれからも伸びが期待され、日本が貢献できる部分も少なくないと思われる。幸い、日本の鉄道システムが優れていることは、各国からも高く評価されており、国際標準化活動を通して、日本の鉄道技術を国際的な資料としてまとめることも、意義あるものと思われる。皆様のご支援をお願いしたい。 

以上

 

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定例会講演 2013年9月

 

超高圧電力ケーブル技術発展の変遷

 

2013年9月
所IEEJプロフェッショナル
吉田 昭太郎

  電力ケーブルの技術開発は、低損失化、コンパクト化、長尺化、高信頼度化、高品質化など電力会社の明確なニーズと主導のもとに進められた。60kV級以上電力ケーブルであるOFケーブル(oil-filled cable)、POFケーブル(pipe type oil filled cable)およびCVケーブル(cross linked polyethylene insulatedcable)について技術の変遷を纏めた。電力ケーブルの技術開発は、主に高電圧化および大電流化に対する材料とその構造の改善の歴史であり、いかにしてコンパクト化ができ、低損失化できるかにある。

ケーブルと接続箱の技術発展に主眼に置き、3期に分類し発展過程を纏めた。

Ⅰ) 模倣技術による国産化            1925年頃~1950年台後半まで

1928年にイタリア・ピレリー社からOFケーブルの技術導入をした。日本最初のOFケーブルは、1930年に日本電力(株)尾久送電所向けに布設された66kV鉛被OFケーブルである。OFケーブルの絶縁性能は既に先行していたヨーロッパメーカーと遜色ないものであった。1951年以降産業の復興とともに66kV以上OFケーブル線路は急増した。コンパクト化のため66kV 3心OFケーブルが実用化された。1955年頃には日本の技術は独り立ちできた。

Ⅱ) 海外技術をベースとした国産化技術の発展   1950年後半~1980年頃まで

 フランスのリヨン社から薄紙絶縁技術を導入し、1960年に287.5kV OFケーブル線路を建設した。その後、絶縁体の低損失化を図るため脱イオン水洗紙を実用化するなど国産技術による高電圧化が進められた。長距離275kV OFケーブルおよび POFケーブル線路が建設され、更に長距離500kV OFケーブルを目標に日本独自の低損失半合成紙の開発が進められた。

架橋ポリエチレン材料自体はアメリカGE社の特許であるが、1960年頃に各社がライセンス契約を結びCVケーブルを商用化した。1964年には70kV CVケーブルが布設された。日本が常に先行してCVケーブルの実用化を進めた。日本独自の乾式架橋製造方式を開発し、併せてトリー現象などの解明を進め、CVケーブルの絶縁性能を著しく向上させた。これらの技術は、世界に先んじた技術であり、超高圧CVケーブルの実用化に貢献した。1979年に世界で初めての275kV CVケーブルが布設された。

Ⅲ) 日本独自技術で世界トップレベルへ       1980年頃~

 275kV半合成紙OFケーブルを実用化した。世界で初めての酸化第二銅皮膜を用いた素線絶縁導体が開発され、POFケーブルおよびCVケーブルに適用され大電流化を果たした。

 500kV CVケーブルを目指して開発が進められた。絶縁性能において欠陥となる異物混入を阻止するため、架橋ポリエチレン材料から絶縁体押出しまで徹底したクリーン化が進められた。1988年には、発電所の引出し線として500kV CVケーブルが世界で初めて実用化され、1989年には長距離275kV CVケーブル線路が実用化された。

 1990年以降、世界トップレベルの500kV ケーブル技術を確立し、これをベースに大容量線路として、本四連系線500kV 半合成紙絶縁OFケーブル、紀伊水道横断直流500kV海底半合成紙絶縁OFケーブル、新豊洲線500kV CVケーブルが実用化された。 

 

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