定例会講演 2021年6月29日

 

地域の再生可能エネルギーと既存配電線を活用した地域マイクログリッド

 2021年6月29日
IEEJプロフェッショナル
中村 知治

1.はじめに
 熊本県芦北町田浦地区を対象とした地域マイクログリッドの建設を目的としたFS(フィージビリティスタディ)の概要を報告する。このプロジェクトの目的は、災害時にも最低限の電力供給を維持できるレジリエンス強化である。主電源は既存のメガソーラ(1.98MW)とし、蓄電池で需給バランス制御をする。通常自営線とする電力供給線に代わり、既存の配電線を活用することでコスト低減を目指した。

2.プロジェクト取り組みの背景
 再エネの主力電源化が求められる中、電力の需要と発電を一体化した「需給一体型」が再エネの導入モデルとして注目を集めている。一方、最近の自然災害時の長期停電被害を踏まえたレジリエンス強化が求められている。その解決策の一つとして、需給一体型を地域に拡大したのが地域マイクログリッドであり、今、導入が促進されている。

3.プロジェクト概要と特徴
3.1 全体概要
 地域には既存の1.98MWのメガソーラーがある。災害時には、この電力を約1km離れた避難所や防災拠点など5か所に供給する。供給線は前述の通り既存の配電線を活用する。配電線の区分開閉器の切り替え操作によりマイクログリッドを構築する。一般需要家を含めたこのエリアの需要は、最大約600kWである。

3.2 需給調整制御
需給バランスをとるために蓄電池を新設する。この蓄電池の充放電制御で、需要変動と発電変動を吸収する。蓄電池の出力定格(kW)は吸収すべき変動幅で決めるが、メガソーラーの最大出力を状況に応じて制御することで、この蓄電池出力定格(kW)を小さくした。一方蓄電池容量(kWh)は、避難所の必要最低電力を見積り、決定した。代表的な発電パターン、需要パターンでシミュレーションし、蓄電池容量の過不足を検証した。また、想定される潮流から、電圧変動が規定値内に収まることも検証した。

3.3 既存配電線の活用
既存の配電線を活用することで初期コストを抑えることができるが、管理運用体制、事故時の責任所掌、電力品質、系統事故時の保護システムなどを、運営事業者、一般送配電事業者間で十分協議する必要がある。

3.4 事業性
災害時の電力供給のみであれば事業性は見込めない。平時に蓄電池やその他の設備を活用することで収益モデルを構築する必要がある。来年度から施行が予定されている配電事業制度などを取り入れたモデルの検討がポイントとなる。

4.まとめ
地域マイクログリッドは再エネ導入の有力な手法である。配電事業制度を活用した新しい事業モデルとして期待される。

以上

 

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定例会講演 2021年5月27日

 

リニア中央新幹線のアウトラインと開発事例
~ 六十年かけた夢 ~

2021年5月27日
神奈川大学 名誉教授、総理研客員研究員
(元)鉄道技研 有機化学ユニットリーダー、㈶鉄道総研 主幹研究員
工学博士 大石 不二夫

1.はじめに
 講師は、超電導磁気浮上式リニア超高速鉄道略してMAGLEVの開発に、初期から参画してきた。開発の歴史と経緯、原理と課題、リニア中央新幹線のアウトライン、及び講師自身の高分子材料のMAGLEVへの応用開発の主な事例を紹介する。 

2.リニアモーターカーの原理とリニア中央新幹線
 リニアモーターカーは、 車上の超電導磁石と地上の電磁石とコイルとの相互作用により推進案内浮上(浮上高さ約10cm)する。リニア中央新幹線は、最高時速500km/hで浮上走行する日本で開発された超高速輸送システムで、東京~大阪を約1時間で結ぶ夢のリニアエクスプレスである。

3.開発の経緯
 超電導磁石によるリニアモーター交通システムは日本独自に研究・開発が行われた技術である。 (1) 1947年3月号「動く実験室」という少年少女の科学雑誌の表紙に「超速磁力列車」掲載された。
(2) 1962年頃鉄道研究所で方式を提案し、研究を開始した。筆者は1964年から研究に参加した。
(3) 1972年鉄道技術研究所内でリニアインダクションモータによる方式で浮上走行した。
(4) 1975年鉄道技術研究所内でリニアシンクロナスモータによる方式で浮上走行した。
(5) 1977年宮崎実験線(全長7km)による走行実験を開始し、1979年517km/hの記録を達成した。
(6) 1997年山梨実験線(18.4kmの試験線)で走行試験開始し、2003年581km/hの最高速度を記録した。その後試験線は42.8kmとなり、試運転(有人)で世界最高時速600km/h(2015年5月)を達成した。

4.筆者の開発事例
(1) 極低温断熱荷重支持材
  車上コイル極低温槽と車体をつなぐ断熱荷重支持材の開発を行った。
(2) 超軽量車両の構体
  超軽量車両用台車枠および構体の開発を行った。
(3) リニアモーターカー用ゴムタイヤ(MAGLEV用およびALPS用)
  リニアモーターカー用ゴムタイヤの開発を行った。

5.リニア中央新幹線の必要性と効果
(1) 東海道新幹線の限界(のぞみ:最小3分間隔。しかも構造物の老朽化)
(2) 安全保障上(鉄道と道路の4動脈が地震・津波の危険、国防上)
(3) 内陸部の開拓・都市開発(全国の過密過疎の打開)
(4) 高速志向へのチャレンジ
(5) 日本発創造技術の海外輸出など

6.リニア中央新幹線の概要
 2015年に着工開始、2027年には品川~名古屋間が開業予定。2045年に大阪開業、全建設費が9.3兆円。内需が大きく拡大し、国交省は沿線企業への経済効果年間8700億円と試算。
 2015年工事費:名古屋迄5.5兆円 2050年の経済効果:10.7兆円。 品川~名古屋:40分。品川~大阪:約60分

7.まとめ
 1960年代に研究が始まったリニアモーターカーは2015年に工事が始まり、2027年の完成を目標に工事が進められている。既に研究が始まって以来60年が経つが、早期の工事完成を祈念している。

以上

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定例会講演 2021年3月25日

 

 

(電力分野)現在の技術の課題

 

2021年3月25日
IEEJプロフェッショナル
天雨 徹

 

1.講演要旨
(1)第五期科学技術基本計画において提唱された「超スマート社会(Society 5.0)」をめざし、産学においてロボット・AIをはじめ様々な研究開発が進められている。他方、菅内閣総理大臣は先の所信表明演説において「2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」ことを宣言した。このような背景にあって筆者は、中部電力パワーグリッドが考える電力システム分野における「2050年を見据えた中長期的研究開発ビジョン」についての現状を解説した。 

(2)今年度実施した研究の事例について以下の(ア)~(オ)の紹介をした。
(ア)ボストンダイナミクス四足歩行ロボット「Spot」による動画
 ロボット技術は、危険の伴う作業や障害発生時あるいは定期巡視・点検に有効に活用できるToolであり、現在研究を進めている。実際に変電所構内においての動画を紹介した。

(イ)ドローン走行いよる送電線ならびに鉄塔の巡視・点検をする動画
 ドローンは、従来の人やヘリによる巡視。点検にわかるものとして有効である。加えて自動走行により、作業効率の向上も期待できる。送電線事故時の事故点の素線切れがあるか否かの確認や、樹木抵触の確認に活躍が期待できる。動画にて紹介した。

(ウ)特別高圧変電所における配電盤操作にVR、ARを活用した事例の動画
変電所の配電盤操作において、従来は指差呼称しつつ、操作票を赤ペンで消し込むとした手法を行っている。それをIPad等用いて、仮想現実(VR:Virtual Reality)、拡張現実(AR:Augmented Reality)、複合現実(MR:Mixed Reality)技術を活用する。仮想の世界と実世界を複合する技術、XRはこれらの技術の総称であるが、これを用いることで操作ミスを担保できると考え研究を進めている。動画にて紹介した。

(エ)変電所自動化システム(SAS:Substation Automation System)は世界標準(IEC 61850)の事例として中部電力技術開発本部の受電設備に適用した。本紹介は電気学会「保護リレーシステム研究会」にて発表した内容である。

(オ)トラベリングウェーブリレーは進行波理論(TW:Traveling Wave)やタイムドメイン技術(TD:Time Domain)を組み入れた従来の対称座標における電圧電流の概念、地絡・短絡事故のベクトルで動作するのではなく、事故時の衝撃波によって動作する画期的な送電線用保護リレーである。中部電力では77kV送電線にフィールド実験をしている。本紹介は電気学会「保護リレーシステム研究会」にて発表した内容である。 

(3)トピックとして以下の(ア)~(イ)について紹介した。
(ア)中電PGの昨年末に発生した500kV西部幹線鉄塔損傷について紹介した。

(イ)今冬における需給逼迫について、電力広域的運営推進機関の資料を用いて紹介した。 

(4)わが国の三相表示ならびに相順について、各電力会社によって色・呼び名・形が違う旨、紹介した。 

2.まとめ
 筆者は送変電ネットワークの技術戦略・開発を所管する部署として、2050年を見据えた中長期研究開発ビジョンははじめ、具体的な足元で進めている研究内容、ならびに年末年始に発生した電力に関するトピックについて紹介した。 

以 上

 

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定例会講演 2021年2月25日

 

楕円関数、変分原理 及び微分・位相幾何の 電力ケーブル問題 への応用
~方法の転換: 計算の代わりに 思考する~


2021年2月25日

IEEJプロフェッショナル
渡辺和夫

1.はじめに
 最近の電磁界解析の分野では、コンピュータによる数値計算技術の進展が目覚ましく、猫も杓子も数値計算に頼ろうとする向きがある。しかし、この得られた数値の妥当性を見極めるには、計算のもとになっている電気磁気現象そのものについて考えを進める習慣を養うことが大切である。すなわち、計算対象をモデル化して、その現象の原理に基づいて試算して、概算値や上下界値を推定することが必要である。その有力な手法の一つとして、等角写像による静電界・静磁界解析がある。また、変分原理による抵抗値や静電容量の上下界計算法などがある。そのいくつかの例を紹介した。

2.楕円関数の応用例
 まず、任意形状の二次元抵抗値あるいは静電容量値の等角写像による計算方法を述べた。任意形状の単連結抵抗領域あるいは誘電体領域の周辺に任意の二つの電極が取り付けられた場合の電極間抵抗値(容量値)は、逐次写像により最終的に長方形領域に写像され、対向する平行電極間抵抗値(容量値)となる。この写像過程で重要となる写像関数が第一種楕円積分とその逆関数であるJacobiの楕円関数である。次にその応用例として、交流超電導ケーブルの導体フォーマと断熱管の渦電流損失計算式の導出例を紹介した。

3.簡略化された変分原理の応用例
 まず、変分法の一応用例として、二次元抵抗領域あるいは誘電体領域の二電極間抵抗値あるいは静電容量値の近似計算法として上界および下界を求める方法(1)を説明した。次に、その応用例として、長方形領域での静電容量の試算例を示した。さらに、電力ケーブルの矩形トラフの熱抵抗計算式への応用例を紹介した。

4.微分・位相幾何学的考え方の応用例
 微分・位相幾何学的考え方を用いた電力ケーブル半導電層の抵抗率を求める測定方法の理論を概説した。これは、「曲面に沿う電流の流れは平面上の微分同相領域に写像して考えて良い」(2)との考えに基づくものである。 さらに、薄肉円筒状抵抗体の二電極間抵抗値の計算法に拡張されることを示した。

5.アフィン写像と楕円関数の応用例
 前章までは、暗黙の内に抵抗率や誘電率の等方性を前提としていたが、本章ではその異方性の場合の取り扱いを紹介した。ある種の条件を満足する関数により異方性領域をアフィン写像すると、それは等方性領域に変換でき、その変換によって電位とエネルギーは不変であるので抵抗値や静電容量値は等方化された領域から正確に得られることが示されている(3)。
 電力ケーブル半導電層は、長さ方向、円周方向および厚さ方向で異なる抵抗率を有する。その表面上にスパイラルにまかれた銅ワイヤー間の抵抗値の計算例を紹介した。アフィン写像により等方性領域に写像してから、前章までの方法で求めるものである。

6.今後の展開
 1)楕円関数と等角写像のDirichlet and Neumann の問題への活用例がまだまだあるだろう。
 2)等角写像を併用した変分法に上下界計算を活用できるケースがあるだろう。
 3)各種関数のリーマン面を曲面薄膜抵抗体とみなして考えることで新しい展開はないだろうか。
 4)異方性領域の等方化写像理論の応用として、異方性の主軸と対象とする主軸が一致しない場合の円筒状異方性抵抗体の等方化写像法を求める。

7.まとめ
 リーマンの根本的原理 「証明は計算ではなく単に思考によって片付けるべきである」、すなわち 「計算の代わりに思考する」 という証明の方法の根本的改革が1897年のヒルベルトの著 「数論報告」 の中で明確に言及されている(4)。 現在のコンピュータによる数値計算(ブラックボックス化)の主流の中でこの思想があらためて再認識されてこよう。その意味で、本報告で紹介した方法は問題の計算過程を単なる数式の変形あるいは数値処理としてとらえるのではなく、幾何学的(図形的)プロセスを経て解いていくもので、「計算の代わりに思考する」 を継承したものである。 
今後広く活用されることを期待したい。

8.謝辞
 本報告は筆者が元茨城大学 寺門龍一教授(現,名誉教授)に興味深く教えていただいた「電磁気学特論」を基盤としています。さらに、「変分原理の応用」と「異方性領域の等方化写像理論」についての先生の論文も活用させていただいております。ここに付記して、同先生に深く感謝いたします。

9.参考文献
(1)茨城大学工学部研究集報1968年
(2)荒又光夫,寺門龍一:
  「等角写像の原理によって面抵抗率を求める新しい理論」,電学論,Vol.87-10 No.949(1967)

(3)柴田、皆川、寺門:「長方形異方性領域の対辺電極間の正確な抵抗値」、
  茨城工業高等専門学校研究報告、第16号,p131,(昭55)

(4)山本敦之訳:リーマン:人と業績, p.354,(1998)

 

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定例会講演 2021年1月27日

 

大震災後の 電力・エネルギー に関する エンジニアリング 教育例と 日本での 電源構成の課題

 

2021年1月27日
IEEJプロフェッショナル
白川 晋吾

1. まえがき
 日本の電力技術は2011大震災前には500kV、800kV、1,000kV送変電技術・原発開発に関して、韓国、中国に対して技術供与の時代であった。ところが、2011年3月11日14:46東北太平洋側沖4地域連動型大地震が発生,41分後15:27に福島第一原発(1~4号機,5,6号機)に大津波が侵入,福島第一原発1~4 号機は爆発損壊・放射線線量汚染が発生(5,6号機は冷温停止)、日本の電力は激変の時代を体験した。電力エネルギーに関するエンジニアリング教育を小生なりの視点で2011~2018年度に実践、学生の反応を求めてきた。この約10年間の電力・エネルギー関連の諸事象、福島第一原発事故事象を含めて学ぶところは多く、日本の将来の電源構成のあり方を議論することは意義がある。

2. 大震災後の電力・エネルギーに関するエンジニアリング教育例
 2011年の大震災後、電力・エネルギーに関するエンジニアリング教育をして来た。東京理科大学理工学部電子電気情報工学科「電気機器製図」「電気機械設計」において、約10年間、4年後期学生の対面授業で文献を読み、図面を作成し、現象の理解を深めることにより、教育実践をしてきた。演題テーマと受講時対面授業で得られた学生の反応は下記に示す。
 演題テーマ:A.2011年大震災M9.0・津波、B.福島第一原発事故事象、C.原子炉循環注水冷却システム構築、D.新規制基準と柏崎刈羽原発、E.火力発電、F.地域エリア間の電力連系の増強、G.太陽光発電の大量導入、H.風力発電、I.西日本(九州・関西・四国)での原発再稼働, J.大震災に学ぶ電気学会の役割と将来に向けて、K.欧州の電力系統。
 対面授業での学生の反応:2011-2018年度での反応例は下記のように列挙される。
・「津波は到達してきた後も水位がどんどん上がっていき急に高くなり,凄まじい巨大大津波の破壊力だと思った。
・非常用発電機の位置が変わっておれば変わっていたかもしれない。
・もしベント(内圧の異常圧力放出)に成功しておれば福島第一原発破壊現象は変わっていたかもしれない。
・循環注水システムの配置図を作成してみると,装置は改善されており、すごいことだと思った。
・図面を作成することで実際に原発がどこにあるのかを原発の位置の図を書くまで知らなかった。こうして図を書いてみると地方にある原発のおかげで生活ができていることが分った。
・火力発電は太陽光出力低下時に電力を供給している。
・CO2の回収,貯蓄の技術はとてもおもしろいと感じた。
・再生エネルギーを主軸とした電力系統は既存の電力系統と大きく異なるため技術開発も必要となると感じた。
・安定供給には16:00以降の代替発電が要。雨水時の代替発電出力が課題。
・風力発電では風速の3乗に比例した電力が発生する。安定した風速が要となる。・原子力は事故や故障によるリスクはゼロではない。
・自然災害リスク、世界情勢を考慮して原発に対応して行くべき。
・西日本地域で2018年、原発は再稼働している。ドイツは福島第一原発事故後、脱原発を表明、廃炉はしているが原発(電源比率約12%分)は継続使用されている。フランス(原発比率75%)は欧州での電力(原発)輸出入の中心であり,やはり原子力は大切だと感じた。事故が起きると一般の人はすぐ使うのをやめようと考えるが,エンジニアはよく検証し、より技術を高めて貢献しようと考える。これは正しいと思う」。

3. 日本での電力エネルギー状況に関して 
 「2050年の温暖化ガス排出実質ゼロ」が2020年10月16日の首相所信表明で行われた。火力発電のCO2排出削減、太陽光、洋上風力の増強、再エネ100%論、電源構成の見直し、2兆円投資等が出ている。2050年の電源比率(総合資源エネルギー調査会分科会2020―12-21参考値):再エネ50-60%、火力化石燃料+原子力30―40%。火力水素アンモニア燃料10%。
(a) 火力発電の温暖化ガス排出CO2削減方法はどのように選ぶべきか?
 世界のエネルギー起源2016(環境省)、CO2排出量によると日本は3.5%で中国の28.2%、米国の15.0%より少ないレベルにある。フランス・ドイツはすべての石炭火力発電所を廃止する方針、インドネシア、ベトナム、タイ、中国、インドなどは石炭火力発電所を運営、大震災後の東日本では福島第一原発、第二原発の代替として高効率大容量石炭火力で電力安定供給が行われている。今後、日本の火力発電所は低効率型から高効率型への転換、水素、アンモニア、バイオマスの混合燃焼、カーボンニュートラルを目指している。
(b) 日本はドイツ・米国と比較し、電源構成をどのようにしていくべきか?
 ①ドイツ(2019年)は再エネ全体46%で、そのうち風力が24.6%、従来電源では石炭29.1%と多く、原子力も12.3%(ドイツ8基11357 MW)で、系統は独仏間が連系されている。メルケル政権後、ドイツは本当に脱原発できるのだろうか。
 ②米国カリフォルニアは再エネ全体48.6%で、太陽光14.2%、風力6.8%、水力19.2%、石炭火力がなくLNG 43%が多い。2020年8月15日にカリフォルニアでは470MW 想定外の電源喪失、1,000MW風力発電の喪失、470MWの計画停電を実施、州全域で約30万所帯が影響を受けた。米国全体の2008~2017年の10年間でみると石炭の割合は約50⇒30%、天然ガスは約20⇒32%に推移している。
 ③日本は2019年再エネ18.6%(水力8.5%、太陽光7.2%、風力0.8%、バイオマス1.9%、地熱0.2%)、石炭31.2%,LNG 34.4%,石油7.1%、原子力6.6%、その他2.1%で再エネの風力が少ない。
 日本の地勢的条件、北欧州の安定した風速6m/sに対して台風・暴風雪・雷襲来の下での安定した風力発電出力維持への懸念はある。東日本では電源の約8割がCO2排出の火力発電に依存、脱炭素時代に火力電源が止まれば立ち行かなくなる。備蓄は日本でLNGは約20日、石炭は200日レベル、原発は核廃棄物の課題はあるが燃料補給なく連続して13ケ月間連続運転される。
 ④世界の原発情勢:中国44基/44,636MW(2019年)活況。・ロシア 32基/ 29060MW(トルコ・インド・イランに輸出)。・韓国24基/ 22,695MW、UAEで1基/1390 MWが2020年稼働開始。・フランス58基/ 65880MW、・米国99基/103560MW(新型炉2基建設中、一部廃炉、20基は20年間使用延長)。
・日本は新規制基準で大震災前56基から32基/31,594MWに整備。
 ⑤大停電による被害例:2018 年 9 月 6 日 M6.7 地震による全域停電により北海道で約 1574 憶円の被害が生じている。
 ⑥電力エリア間の電力融通の増強、50 Hz /60Hz 間の連系強化。
 ⑦電源構成の選択には発電設備容量に関して、発電設備利用率の考慮が重要、火力発電約80%、 太陽光発電約12%、風力発電約40%(8m/s)、原発57-81%(米国原発設備利用率90%)。

4.まとめ
 電力は国民生活の基本、約20兆円/年の産業である。電源構成に関して、石炭火力廃止・再エネ100%論の行き過ぎによって、大停電に見舞われ、経済的大損害に陥るような状況を避ける必要がある。―人々が多様性を求めるように、発電方法の多様性の選択が必要―

 

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定例会講演 2020年11月19日

 

電力・動力系エンジニアリング分野に見るDigital革新について

 

2020年11月19日
IEEJプロフェッショナル
長谷 良秀

1.講演要旨
 直近10年間のDigital 環境の進化と普及は著しく技術者は自身の机上仕事の大半を自身のPC作業によって行う状況にある。電気・電力の技術分野においても技術者の個々の技術業務やビジネススタイルを変えてしまう革新的な世界標準アプリが急速に普及しつつある。筆者は下記4っの点を指摘しつつその実情について解説を行った。
(1)世界標準の革新的なDigital Engineering Tools がこの数年で大進化をし、誰もが自席のPCで高度の技術計算を含むエンジニアリングを遂行できるようになった。欧米主導の世界標準のDigital Application Platformsがエンジニアリング業務やビジネススタイルに革新をもたらしつつある。

(2)欧米主導の世界標準のDigital Application PlatformsはIEEE/ANCI &IEC-standardsと密に関連しつつ多目的かつ高度のエンジニアリングを効率的に遂行できるので急速かつWorldwide に普及しつつある。海外のビジネス契約の基礎として、またアカデミーでは研究&論文発表等の基礎としても活用されている。

(3)これら高度の技術Tool環境によって世界のエンジニアリングパワーの高度化、均質化が進みつつある。

(4)日本においてはこれらのToolsの知名度・活用度が極めて低く、エンジニアリング業務スタイルのガラパゴス化が懸念される。日本においては大手の化学・鉄鋼・非鉄・電機・鉄道等の産業界で活用され始めているものその普及度は限られており、特に電力会社では長年にわたり蓄積してきたノウハウの財産があるため殆ど利用されていない。


2.まとめ
 筆者は電気回路の実効値計算を基礎とする代表的なEngineering ToolとしてETAPの性能について概要を解説した。そのうえで筆者は下記のコメントで締めくくった。
「技術のすべての机上業務において誰もが自席でこれらの高度な道具を(WordやExcelの如くに)使える時代になった。 情報化が大進化を遂げた現代においては「Digital toolを上手に活用する者が勝つ」という視点に立てば、日本の産学の技術者にはガラパゴス島の垣根を飛び越えて世界標準を積極的に操る勇気と技能が求められる。」                        

以上

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定例会講演 2020年10月20日

 

ドイツの再生可能エネルギー普及への取り組みと日本

 

2020年10月20日
IEEJプロフェッショナル
佐藤 信利

1.はじめに
 ドイツは、2000年に再生可能エネルギー法(FIT(Feed in Tariff)制度)を成立させ、再生可能エネルギー(以下再エネ)導入目標を改定しながら、計画的に再エネの導入を進め、2018年にはドイツ全体の電力量の40%超を発電するに至っている。本講演では、ドイツの再エネ普及への国としての意欲的な取り組みについて説明した。


2.再エネ普及のポイントとドイツの取り組み
 再エネ普及するためのポイントは以下の3点であり、それに対してのドイツの取り組みは以下の通りである。
a.固定価格買取制度(FIT:Feed in Tariff)
b.電力自由化(送電系統網の独立)
c.政府の長期的視点

2.1 固定価格買取制度(FIT)
 2001年から再生可能エネルギー法(EEG9を施行した。その特徴は、導入するエネルギー量を目標値として明記していること。定期的に目標値と現状をチェックし、差異があればそれに応じて対策を立てるPlan Do Check Actionを国レベルで実施している。

2.2 電力自由化
 送電系統網の独立を確保するために、連邦ネットワーク規制庁を設立し、既存の大手電力会社の影響を極力排除し、自由な競争の確立に努めている。その結果、大手電力も既存の発電事業から再エネの導入、スマートグリッド事業などへの取り組みに変化している。

2.3 政府の長期展望
 ドイツは、エネルギー政策を国会で議論し国民の理解を得て、その結果を法制化し、国として推進している。FITの賦課金が大きくなっても、国民が再エネを推進する政策を支持しているのは、その成果と言える。


3.日本の状況
 日本での再エネ普及についての3ポイントについて状況を述べる。

 ポイント1のFIT制度は2012年に実施されたが、普及が十分とは言えない状況で賦課金の抑制を名目に入札制度の導入が図られ、今後の再エネの普及にブレーキをかける事態となっている。

 ポイント2の送電系統網の独立では、送電会社が大手電力会社の支配の下にあり人事等でも独立性が疑わしい状況であり、再エネの普及を担う新電力の経営が厳しい状況にある。

 ポイント3の政府の長期展望では、2050年までに温室効果ガスを実質ゼロにするとの宣言はなされたが、それを実現するための具体的な目標とプロセスが国会でもほとんど議論されていない状況であり、長期的展望に立った国のリーダーシップは感じられない。

 このままでは、2050年までに地球温暖化ガスの実質ゼロも絵に描いた餅になる可能性が大であり、世界からも相手にされない国になってしまうことを恐れる。 

以上

 

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